翻訳の仕事はAIに奪われる?翻訳家が必要な理由と将来必要なスキル

AI副業

AI技術の台頭によって、Web上での翻訳機能は大幅に進化しています。実際にすでに多くの企業では機械翻訳が取り入れられており、おもに産業翻訳の分野ではAIが欠かせない存在になっています。

そこで気になるのが、翻訳家の仕事の未来です。幅広い分野の翻訳をAIが担当する現代で、翻訳家の仕事はどのように変化していくのでしょうか?今回は、翻訳家の仕事とAIの関係性、AI時代に翻訳家が生き残るためのスキルなどをご紹介します。

監修者プロフィール
森下浩志
日本最大級のAI情報プラットフォーム「romptn ai」編集長。著書に「0からはじめるStable Diffusion」「0からはじめるStable Diffusion モデル・拡張機能集編」など、AmazonベストセラーのAI関連書籍を多数執筆。AIにおける情報の非対称性を解消するための社内研修や出張講義も行う。

AIによって「翻訳家の仕事がなくなる」といわれる3つの理由

ここでは、AIによって「翻訳家の仕事がなくなる」といわれる理由をご紹介します。人間よりも遙かに早いスピードで、正確性の高い翻訳をしてくれるAI。AI翻訳の利点を把握したうえで、翻訳家の未来について考えていきましょう。

①AI翻訳の精度が急速に向上しているから

AIに翻訳家の仕事が奪われる可能性には、AI翻訳の精度の向上が関連しています。昨今のAI翻訳では、かつての「単語を直訳するような翻訳」とは異なり、文脈や言い回しなどを考慮した自然な翻訳が実現しつつあります。

とくに感情的な表現の少ないテキストの翻訳は、AIの得意領域。ニュースや日常会話など、定型的な文章であれば「AI翻訳で十分」といわれるシーンも増えてきました。

②人件費や作業時間などのコストが圧倒的に低いから

人間とAIの大きな違いの一つとして、運用コストが挙げられます。翻訳をAIに任せれば、人間の翻訳家に頼むよりも圧倒的な早さ&人件費の安さで仕上がります。

人間が何時間もかかる翻訳作業も、AIに任せればほんの数秒。良質な翻訳AIには導入・運用コストも発生しますが、人間の人件費と比べれば遙かに安いものです。多くの企業がコスト削減を求めるなか、AI翻訳は「人間の翻訳者の工数や費用を削減したい」というニーズに噛み合っているのです。

③翻訳機能自体の利用ハードルが低いから

AI翻訳の大きな利点としては、翻訳機能自体の利用ハードルの低さも挙げられます。AI翻訳の基本的な使い方は「原文をコピーしてペーストするだけ」。未就学児から高齢の方まで、簡単に翻訳機能を使えます。

もちろんAI翻訳は完璧な精度とはいえないものの、実際の利用では「精度が微妙でも内容がつかめれば問題ない」というシーンも多いものです。この「誰でも気軽に使える」という点も、「人間の翻訳家の仕事が奪われる」と思われやすい理由といえるでしょう。

現在でも「人間の翻訳能力」が重宝される理由

ここでは、AI時代においても「人間の翻訳能力」が重宝される理由をご紹介します。数々の仕事がAIに置き換わりつつあるなか、いまだに一定のニーズを確保している翻訳家。その理由と魅力を学び、キャリアプランに役立てていきましょう。

①AIは曖昧な表現やスラングへの対応が難しい

翻訳家が重宝される理由として、AIの非万能性が挙げられます。確かにAIは人間よりも遙かに早いスピードで翻訳をしてくれますが、曖昧な表現やスラングへの対応が苦手です。

たとえば日本語における「ヤバい」は、感動・驚き・落胆・喜び・興奮など、さまざまな感情が含まれた圧縮言語といえますよね。人間であれば、前後の文脈や共感力を駆使して適切な表現に翻訳できますが、AIにはどのような感情が含まれているのかを判断するのは困難です。

②AIは読み手に合わせた表現の調整が苦手

AIは、読み手に合わせた表現の調整が苦手です。たとえば同じ文章を翻訳する際に、「友達に送る用」「ビジネスメール用」程度であればAIでも対応できるでしょう。しかし「少しのジョーク程度なら言える、大事な取引先相手」のような微妙な関係性の場合、AIだけでは適切な翻訳が難しい場合があります。

とくに日本語のような「関係性やシチュエーションによって言葉遣いが複雑に変わる言語」の翻訳は、人間ならではの繊細さが求められます。

③「AI翻訳」の正しさを識別する人が必要

AI翻訳は日々精度が向上しつつありますが、決して100%正確ではありません。今後どれほどAI翻訳機能が進化したとしても、翻訳結果を識別する人間の存在は必ず必要になります。

たとえ翻訳家の仕事の大半がAIに置き換わったとしても、人間の目で最終チェックをする必要性は失われないでしょう。人間による識別は、文章の正しさだけではなく、相手との関係性や信頼も担保するための要でもあるのです。

④AIが苦手とする翻訳ジャンルが多い

高性能なAI翻訳にも、多くの苦手ジャンルが存在しています。たとえばコピーライティングや文芸作品など、芸術性が高い文章が挙げられます。直訳するとニュアンスやメッセージ性が大きく損なわれてしまうケースが多いため、人間による本質的なテーマの汲み取りが必要です。

歌詞やポエムなども同様に、AIだけでは適切な翻訳は難しいでしょう。また学術誌のような専門性が高すぎる内容も、AI翻訳だけでは不安が残ります。

AI時代の翻訳家が身につけておくべきスキル

ここでは、AI時代の翻訳家が身につけておくべきスキルをご紹介します。AI化が進むこれからの時代、あらゆる業種において「AIとの協働」は避けられない未来といえるでしょう。AI時代に生き残るために、今から始めるべき学習について考えていきましょう。

①クライアントや読み手のニーズに応える対応力

AI時代の翻訳家は、クライアントや読み手のニーズに応える能力が求められます。「本文をただ直訳するだけ」であれば、AIの翻訳機能で十分です。人間ならではの想像力や洞察力を駆使したうえで、相手の目線に立った考察や言葉選びが必要になります。

たとえば著名人のカジュアルなブログの内容を翻訳する際に、論文さながらの硬い文章で表してしまうと、ユーザーニーズから逸れてしまいますよね。書き手の意図と読み手のニーズを照らし合わせ、両者の橋渡しをするような対応力・調整力が重要です。

②豊富な語彙力・表現力

翻訳家がAI時代を生き抜くためには、豊富な語彙力や表現力が求められます。ニーズに合った表現のためには、できる限り多く「表現の方法」を持っている必要があります。

たとえば「赤」という一つの色にも、非常に多種多様な呼び名がありますよね。やや黄色味のある「思(おもい)色」、カエデのような「紅葉(もみじ)色」、深く鮮やかな「洋紅(ようこう)色」……。多くの単語を覚え、教養を身につけることで、より臨機応変かつ柔軟性のある翻訳が可能になります。

③専門的な分野への対応力

AIは、業界用語が多い専門的な分野の翻訳が苦手です。なぜなら専門性が高い分野は、使用シーンが限定的な固有名詞やニッチな単語が多く、TPOに応じた翻訳がAIには困難だからです。そのため「ある一つの分野に特化した翻訳力」を磨くことで、AIに置き換わられない強みを持てるでしょう。

ただしAIは今後さらに進化していくため、一つの専門領域に強いだけでは不安が残ります。自分が翻訳可能な専門領域を複数持つことで、AIが苦手とする「分野横断的な思考を踏まえた翻訳力」が身につきます。

④生成AIやプロンプトに関する知識

今後のAI社会では、「人間とAIがそれぞれの強みを生かし、弱みをカバーし合う」ような協働の働き方が広まっていくでしょう。その際に人間に求められるのは、非認知能力だけではありません。生成AIやプロンプト、自然言語処理などに関する知識も必要です。

AIとの協働は、ほぼ確約されている未来です。だからこそ「AIを使う能力が高い人」「AIリテラシーが高い人」のニーズは、さらに高まっていきます。もちろん翻訳家も例外ではありません。AIを理解したうえでプロンプトを入力できれば、より迅速かつ正確性の高い出力結果が生まれ、結果的に自身の作業効率も上がっていきます。

翻訳家の代わりに登場した仕事「ポストエディット」とは?

AI時代でも、人間の翻訳家は重要な仕事の一つです。しかし昨今、翻訳家から派生した「さらなる仕事のかたち」として「ポストエディット」という職業が注目されています。

ポストエディットとは、機械翻訳によって出力された翻訳文を、目的に合わせてブラッシュアップする仕事です。現在この仕事は翻訳家の業務の一環ですが、今後AIとの協働が進むなかで、翻訳家と独立した仕事として確立されていくと考えられています。

ポストエディットとして働くためには、言語力や語彙力、表現力、想像力など、翻訳家と同様の能力が求められます。AI翻訳の弱点を補えるポストエディットは、企業におけるニーズが高まっていくでしょう。

これからの翻訳家は「AI翻訳の結果」を見極め、磨くための能力が必要!

今回は、AI翻訳と人間の翻訳家との関係性や、協働のポイントなどをご紹介しました。

AI時代において、文章を正しく翻訳するだけの翻訳家は、少しずつ淘汰されていくでしょう。その代わりに、人間ならではの非認知能力を正しく発揮できる翻訳家は、ますます注目されていく可能性があります。

AIにも人間にも、それぞれの強みと弱みがあるもの。大切なのは、お互いの得意領域を把握したうえで「より効率的かつ生産的な協働」を実現するための取り組みです。AIが社会に与える変化を学びつつ、時代に合わせた働き方について考えてみましょう。