AI技術が躍進する現代では、人間ならではの能力を活かした仕事に注目が集まっています。たとえばコミュニケーション力や思いやり、想像力、共感力。AIにはない力を活用した仕事は、今後も雇用が安定しやすいと考えられるでしょう。
人間の非認知能力を活用する仕事の一つとして、カウンセラーが挙げられます。今回は、カウンセラーがAIに奪われない仕事といわれる理由や、AI時代にカウンセラーが求められる能力をご紹介します。カウンセラー特有の仕事内容を学び、AI技術との共生について考えていきましょう。
カウンセラーが「AIに奪われない仕事」といわれる4つの理由
ここでは、カウンセラーがAIに奪われない仕事といわれる理由をご紹介します。すでに一部の人間の仕事は、AIに代わられつつあります。しかしカウンセラーの雇用においては、悲観的な意見はあまり見受けられません。カウンセラーならではの働き方に着目し、その理由を学んでみましょう。
①対話のなかで相談者と「関係性」を築けるから
カウンセラーがAIに奪われない仕事といわれる理由は、対話を通して相談者との関係性を築けるからです。現在のAIは、簡単な悩み事や相談であれば適切な回答をしてくれるケースも多いですよね。しかしAIの回答は、あくまで一問一答形式です。
アカウントを変えたりログを削除したりすれば、AIが共有した情報はリセットされてしまいます。しかし人間のカウンセラーであれば、積み重ねた時間や交わした言葉の数だけ関係性が育まれ、最初は言えなかったような話も言いやすくなります。時間をかけて生まれる信頼や安心に、相談者は価値を感じるのです。
②AIは「非言語的なサイン」を読み取れないから
AIが「非言語的なサイン」を読み取れないことも、カウンセラーがAIに奪われない仕事といわれる理由です。非言語的なサインとは、文字通り「言葉に表れない心理」のこと。たとえばちょっとした声の揺らぎにも、複雑な心理が隠されているときがありますよね。
AIはテキストでのコミュニケーションしかできません。音声対応のAIであっても、結局は「音声をテキスト化」することでしかやり取りができません。対して人間のカウンセラーであれば、相談者の非言語的なサインから「矛盾した想いや相反する感情」を読み取り、複雑で繊細な心理状態を汲むことができます。
③複合的な要素を組み合わせる必要があるから
カウンセラーがAIに奪われない仕事といわれる理由としては、複合的な要素を組み合わせる仕事であることも挙げられます。カウンセラーは、目の前の相談者が発した言葉やサインだけではなく、異なる要素を横断する思考をもって本質的な悩みを汲み取る仕事です。
たとえば相談者の悩みは、現在の相談者を取り巻く環境のみが関与しているとは限りません。幼少期の家庭環境や、過去の恋愛のトラウマなど、さまざまな情報や経験が関連している可能性があります。複合的な要素から回答を導き出すためには、人間ならではの想像力や共感力などが必要なのです。
④相談者の「パートナー」として寄り添う仕事だから
カウンセラーは、相談者のパートナーとして寄り添う仕事です。AIは、基本的に「相談への回答」や「一過性の共感」しかできません。相談者の「人生の併走者」としてともに歩み続けられることも、カウンセラーがAIに奪われない仕事といわれる理由です。
相談者の悩みを最終的に解決するのは、カウンセラーではなく相談者自身です。カウンセラーの仕事は、あくまで「相談者が自分で納得できる生き方を決断するためのサポート」でしかありません。
しかし、だからこそ相談者にとってのカウンセラーは、「一緒に歩んでくれる存在」として心強いパートナーになるのです。どれほど優れたAIでも、「人とともに悩みながら歩む存在」にはなれません。AIの役割は、どこまでいっても「便利な情報提供者」に留まります。
油断は大敵。AIに仕事を取られつつあるカウンセラーの4つの特徴

人間ならではの力が求められるカウンセラーですが、一部のカウンセラーはAIに仕事を奪われつつあるようです。ここでは、AIに仕事を取られてしまうカウンセラーの特徴をご紹介します。人間とAIとの違いを把握しつつ、今からの時代に求められる能力を考えていきましょう。
①「共感」ばかりを重視している
共感力は、人間だからこそ持てる力の一つです。しかし共感ばかりを重視しているカウンセラーは、AIに仕事を奪われてしまうかもしれません。なぜなら今後のAIでは、ユーザーの心理に寄り添う「共感型モデル」が展開される可能性があるからです。
一つの型に特化した対話は、AIの得意領域。現行のAIでも、プロンプト次第では共感重視のやり取りが可能です。共感や傾聴だけではなく、新しい視野や考え方に「気づかせる力」や「相談者に考えさせる力」を持たないカウンセラーは、次第に淘汰されていくでしょう。
②テクノロジーとの共存ができていない
テクノロジーとの共存ができていないカウンセラーも、AIに仕事を奪われてしまうリスクがあります。IT技術が躍進し続けている現代では、相談者もITツールやサービスを利用したうえで、「人間ならではの対話力や安心感」を求めてカウンセリングを予約します。
そのためカウンセリングの内容が「AIツールやWebサービスでもできること」ばかりのカウンセラーは、相談者からのニーズが低くなってしまいます。IT・AI時代のカウンセラーは、デジタルツールへの見識や、内容の差別化が求められるでしょう。
③AIにはない非認知能力が不足している
AIに仕事を奪われやすいカウンセラーの特徴として、非認知能力が不足していることも挙げられます。非認知能力とは、テストや点数で評価できない「人間ならではの力」のこと。カウンセラーに求められる非認知能力では、コミュニケーション能力・想像力・洞察力・共感力などが代表的です。
カウンセラーは、相談者すらも気づいていない本心を引き出したり、言葉に隠された根本的な問題の解決を引き出したりする必要があります。声色や表情、仕草、文脈の違和感など「人間が出す特有のサイン」に敏感であるためには、AIにはない非認知能力が求められるでしょう。
④心理療法における「技法」にばかり執着している
心理療法における「技法」にばかり執着しているカウンセラーも、AIに仕事を奪われやすくなってしまいます。相談者の悩みの原因は、一人ひとりの人生や感性によって異なるものです。
「パターンAの反応時はこの対処、パターンBの反応時はこの対処……」のような機械的な対応は、相談者のニーズに合った対応とはいえません。パターン化された対応だけを求めているのであれば、AIで十分になってしまいます。
AIに仕事を奪われないために…これからのカウンセラーに必要な4つの能力
ここでは、AI時代におけるカウンセラーに求められる能力をご紹介します。カウンセラーに求められているのは、相談者一人ひとりの「人生の文脈」を読み取る力です。人間ならではの能力を駆使し、相談者の安心や信頼につながるカウンセリングをおこないましょう。
①深い洞察に基づいた共感力
AI時代におけるカウンセラーは、深い洞察に基づいた共感力が求められます。洞察とは、物事の本質を見抜くこと。共感とは、他者の感情や思考を理解したうえで寄り添うことです。これからのカウンセラーには、洞察と共感の両方が求められます。
共感だけでは、相談者の悩みの本質に気づけません。洞察だけでは、相談者の心を開けません。相談者が言葉にできない苦しみや痛みを見抜いたうえで、優しく寄り添う力が必要です。
たとえばカウンセリングにおいて、相談者の「沈黙」には深い意味が含まれます。しかし沈黙に隠された迷いや葛藤に、AIは気づけません。AI時代を生き抜くためには、非言語的なサインを汲み取り、対話に取り入れられるカウンセラーを目指しましょう。
②人間的な信頼感・安心感
AIサービスが拡大する現代では、AIへの相談は誰でも無料でできます。「タダですぐに答えが欲しい」と考えている人にとって、AIは人間よりも遙かに魅力的な存在です。しかしどれほどAIが有能になっても、カウンセラーへの相談者は尽きないでしょう。
なぜなら人間のカウンセラーには、AIにはない「人間的な信頼感や安心感」があるからです。AI時代を生き抜くカウンセラーになるためには、「この人に話してよかった」と思えるような魅力が必要です。
話の内容だけではなく、「存在」で支える力。これは、AIには絶対にまねできない「人間らしさの極み」といえる力です。
③一人ひとり、個別の問題に向き合う対応力
AI時代のカウンセラーには、一人ひとり個別の問題に向き合う対応力も求められます。たとえば「人間関係の悩み」と一言で言っても、人によって悩みの種類や背景はまったく異なりますよね。
AIは、一人ひとりの人生の文脈に沿って対応するのが苦手です。AIの得意分野は、パターンを型にはめ込んで識別し、対応すること。しかし人間の心は、一つの型にはめ込んで考えられるほど単純なものではありません。
人間のカウンセラーであれば、物事のパターン化に頼らず「その人固有の人生・文化・価値観」を理解したうえで、悩みを汲み取れます。目の前の相談者と向き合い、相手を尊重する姿勢を持つことが大切です。
④グレーな物事における、倫理的な判断力
グレーな物事における倫理的な判断力も、AI時代のカウンセラーに求められる能力です。世界は、白か黒かのみで判別できないことであふれています。「好き嫌い」や「善悪」などにも、シチュエーションによって無限のグラデーションが存在していますよね。
たとえば「人をいじめてしまう」という悩みに対し、AIは「いじめるのをやめる方法」を提示するのが得意です。しかし人間であれば「人をいじめてしまう背景や心理」をキャッチアップし、深掘りによって深層心理やトラウマと向き合い、根本的な解決に導けます。
カウンセリングの本質的な目的は、悩みを解決することではなく、相談者が「より自分らしく幸福で納得感のある人生」を歩むことにあります。このサポートができるのは、人間ならではの能力です。
相談者を適切なスタイルでサポートするためにも、モラルや道徳を身につけたうえで、柔軟な対応力や判断力を鍛えていきましょう。
【参考】カウンセラー以外には?AIに取られない仕事ランキング

カウンセラー以外にも、AIに取られにくい仕事は多く存在しています。たとえば……
- 医者・看護師……人間特有の臨機応変な対応力が必要。
- アーティスト・クリエイター……AIにはない創造性や想像力が必要。
- 教育職……感情や成長に寄り添い、細やかに対応する力が必要。
- 介護職……身体的なケアだけではなく、安らぎや共感などの精神的なケアが必要。
- 通訳・翻訳……文章に込められた本質的な意味を汲み取る力が必要。
- 法律関係……個々の複雑な状況に応じた判断が必要。
- コンサルティングや営業職……顧客の状況に合わせた柔軟な提案力が必要。
上記はあくまで一例であり、ほかにも多くの職業が「人間ならではの能力」を必要としています。またAI技術が発達するにつれて、「AIツールを開発・運用・保守・活用する仕事」のニーズも高まっていくでしょう。
カウンセラーの仕事をAIに奪われないためには、非認知能力の向上が大切
今回は、カウンセラーの仕事がAIに奪われにくい理由や、これからの時代に求められるカウンセラーの能力などをご紹介しました。
カウンセラーの仕事は、さまざまな非認知能力の集合体のような内容です。たとえばコミュニケーション力・洞察力・想像力・傾聴力・共感力・論理的思考力・読解力・判断力・思いやり・分野横断的な思考力……。これらの力を複合的に組み合わせるだけではなく、相談者にとってベストな形で発揮されることで、カウンセラーの仕事に価値が生まれます。
AI時代を生き抜くためには、人間ならではの力が必要。ぜひこの機会に自己分析をおこない、自分が高めるべき能力を調べてみましょう。