デジタル時代において、顧客サポートの効率化と質の向上は企業にとって欠かせない要素です。
チャットボットとFAQシステムは、この課題を解決するための強力なツールとして登場しました。しかし、これら二つの技術はどのように異なり、どのように活用すれば最大の効果を発揮するのでしょうか?
本記事では、チャットボットとFAQシステムの違い、それぞれの利点、そしてこれらを効果的に使い分ける方法について解説します。
チャットボットとは?
チャットボットとは、ユーザーの質問に対して自動的に回答をしてくれるプログラムのことです。名前の由来は「チャット」と「ロボット」を組み合わせた造語です。
主に企業のホームページで導入されています。画面下の方から「なにか質問はありませんか?」と表示され、チャット形式で質問に答えてくれます。
近年のAIの発達で回答精度がかなり向上しており、会話内容もかなり自然です。
- お問い合わせ対応の効率化
- 24時間体制で質問に回答できる
- 気楽に質問ができる
などのメリットがあり、従業員の工数削減のために導入する企業が増えています。
FAQシステムとは?
FAQシステムとは、よくある質問を事前にまとめて、ユーザー自身で疑問を解決できるように誘導するシステムのことです。
「よくある質問」や「Q&Aページ」という呼び方の方が馴染みがあるかもしれません。チャットボットよりも多くの情報をあらかじめ用意しておくことができるので、ユーザーの疑問に幅広く対応できます。
FAQシステムは専門知識がなくても設置することができ、導入コストも安く抑えられるのが特徴です。
チャットボットとFAQシステムの違い
両システムを比較してみると、以下の表のようになります。
比較内容 | チャットボット | FAQシステム |
---|---|---|
質問方法 | 会話形式 | 一問一答 |
設置場所 | webサイト上のどこでも | 専用ページ |
回答までの時間 | 早い | 遅い |
導入コスト | 高い | 安い |
主な使用シーン | ・ユーザーの悩みが抽象的 ・その場で簡単に質問したい ・他言語での回答が欲しい | ・回答をより詳しく知りたい ・悩みがはっきりしている ・長文や図解での解説が欲しい |
どちらも「疑問を解決する」という目的は同じですが、使い勝手は全く違います。
チャットボットは会話形式で疑問を解決してくれるため、ある程度ザックリとした質問でも素早く回答まで辿り着くことができます。
簡単な質問であればチャットボットの方が便利ですよね。
一方FAQシステムは、ユーザーが自力で回答ページを探して解決策を見つけなければいけないので、少々手間がかかってしまいます。
しかしその分詳細な情報を表示することができるので提供できる情報は多くなります。
このようにお互いにメリット・デメリットがあるので、できるだけ両方とも導入しておいた方が、ユーザー満足度は高まりますよ。
チャットボットとFAQシステムの使い分け
チャットボットとFAQシステムは適材適所で使い分けることによって、その効力を最大限発揮することができます。
例えば、何度も質問されるような質問にはFAQシステムであらかじめ回答を用意しておいて、複雑な質問に対してはチャットボットを使ってもらうようにします。チャットボットがユーザーの質問に対して、FAQのリンクを提供するように設計するのも効果的ですよ。
このように組み合わせることで、より効率よくユーザーの疑問を解決することができることもあるので、色々な使い方を考えてみましょう。
チャットボットの作り方
チャットボットは自社開発することもできますが、社内に専門知識を持ったエンジニアがいない場合は導入コストやメンテナンス費用を考えると、外部サービスの利用がオススメです。
最近は機能が豊富なパッケージ商品が多数あるため、導入後の運用もかなり楽になります。
外部にチャットボット作成を依頼する場合は、大きく分けて以下の5つのステップがあります。
- 導入目的を明確にする
- 利用するベンダーを決める
- Q&Aデータを集める
- 完成したチャットボットをテストする
- 実際に公開して改善していく
ここから各ステップについて簡単に解説していきます。
①導入目的を明確にする
チャットボットを導入する目的をはっきりさせておくことで、自社のニーズに合ったツールの選定がしやすくなります。
- ユーザーの自社の商品をオススメしたい
- 社員からのよくある質問に答えたい
- 商品購入までの案内を自動化させたい
など、目的は様々です。目的をはっきりさせることで、導入までの流れがスムーズになります。必ず最初に決めておきましょう。
②利用するベンダーを決める
導入目的が決まったら利用するチャットボットベンダーを決めましょう。
チャットボットベンダーとは、企業向けにチャットボットを作成して提供してくれる企業のことです。
チャットボット導入の目的に応じて、開発・運用・改善までを行ってくれるため、自社でチャットボットに関するノウハウがない場合は、チャットボットベンダーにお願いするのがオススメです。
各ベンダーによって得意な分野が違ったりするので、自社のニーズに合ったサービスを提供しているかどうかは事前に確認しておきましょう。
③Q&Aデータを集める
チャットボットはQ&Aデータを元に回答するようになっているので、事前にデータを用意しておきましょう。
集まったデータはエクセル等にまとめておきます。AI型のチャットボットを作成したい場合は、ここでより多くの質問や会話パターンを覚えさせておくことで、チャットボットの完成度が大きく変わります。後から修正が少なくなるように時間を使ってデータを集めましょう。
④完成したチャットボットをテストする
事前に用意しておいた質問を、チャットボットに投げてみて想定した答えが返ってくるかどうかをテストしましょう。
- 正しい答えが返ってくるか
- 使い勝手の悪いところはないか
- どのような聞き方をしても同じ答えが返ってくるか
などの項目は最低限チェックしておきましょう。思ったような回答が得られない場合はこの時点で修正が必要になります。
⑤実際に公開して改善していく
実際にチャットボットを公開して、ユーザーの反応を見ながら改善をしていきます。
チャットボットは作って終わりではなく、日々のデータを見ながら改善していくことが重要です。不具合が出た場合は迅速に対応し、より良いチャットボットを目指しましょう。
FAQシステムの作り方
次にFAQシステムの作り方を紹介していきます。
以下の4ステップにまとめました。
- よくある質問をまとめる
- 収集データに優先順位をつける
- FAQページを作成する
- 実際に公開して改善していく
1つずつ簡単に解説していきます。
①よくある質問をまとめる
自社のサービスに関するよくある質問を集めてまとめておきましょう。メールや電話、チャットでの問い合わせの履歴を確認することで、よくある質問を洗い出すことができます。
製品の取り扱い説明書などを見て、想定される質問を考えるのも効果的です。社内FAQを作りたい場合は、日常的に社員からの悩みや疑問、福利厚生などの社内の情報を集めておきましょう。
②収集データに優先順位をつける
よくある質問をまとめたら、重要度ごとに分類分けしていきましょう。
- 何度も聞かれている質問
- 専門知識がないと答えられない質問
- 回答することができない質問
など、すべての質問を分類分けしましょう。
問題の重要度をA(重要)〜C(そこまで重要ではない)の3つのカテゴリに分けて分類をする、ABC分析も有効です。大事なのは優先的にFAQページに載せる項目を洗い出すことです。
ここで洗い出したデータは運用開始後も定期的に見直すことになるので、時間をじっくり使って慎重にやっていきましょう。
③FAQページを作成する
ここまできたら実際にFAQページを作っていきます。前のステップで洗い出した、優先順位の高い項目から回答を作成していきましょう。
チャットボットと違いより詳細な情報を載せることができるので、より専門的な回答を用意しておくことが重要です。作成には管理と分析ができるFAQ作成ツールを利用するのがオススメです。
ほとんどのFAQ作成ツールにはテンプレートが用意されているので、手順に沿って進めていくことで簡単に作成することができます。FAQツールには用途に応じて様々な種類があるので、用途に応じて最適なツールを選びましょう。
④実際に公開して改善していく
FAQページを実際に公開して運用・改善をしていきます。一度公開して終わりではなく定期的にメンテナンスしましょう。
ページ公開後のお問合わせ件数の推移や、公開時にはカバーしきれていなかった質問など様々なデータが集まってくるはずです。そのデータを元に回答に補足を加えたり、古くなった情報を新しくしたりして常にアップデートしていきましょう。
チャットボットを活用した成功事例
ここからは実際にチャットボットを活用して成功した事例を見ていきましょう。
活用事例①:川崎汽船株式会社
導入企業名 | 川崎汽船株式会社 |
事業内容 | 海上運送業、陸上運送業、航空運送業、海陸空通し運送業、港湾運送業等 |
従業員数 | 5,471名 |
AI導入前の課題 | 担当部署がわからず部署違いの問い合わせが質問が多く、正確な回答ができない |
AI導入成果 | 月600件以上の問い合わせ自動対応、回答率95%達成、24時間365日対応可能に |
世界有数の海運会社「川崎汽船」では、社内問い合わせの効率を向上させるために、AIチャットボットを導入しました。
社員が選択型の質問に回答することで自己解決ができるような仕組みを作り、すぐに回答できない質問に対しては、適切な部署への連絡先を明記するようにしました。
その結果、月に600件以上の問い合わせに自動対応し、95%の回答率を達成。24時間365日対応が可能となり、社内問い合わせの効率が大幅に向上しました。
活用事例②:帝人株式会社
導入企業名 | 帝人株式会社 |
事業内容 | 高機能繊維・複合材料、電子材料・化成品、ヘルスケア、繊維製品・流通、IT |
従業員数 | 22,484名 |
AI導入前の課題 | 社内ポータルサイトの情報が分散してしまい、必要な情報を見つけられない |
AI導入成果 | 問い合わせ件数の20%削減に成功。必要な情報をすぐに見つけられるように改善 |
高機能繊維や流通、IT系など様々な分野で事業を展開している「帝⼈株式会社」では、社内ポータルサイトの課題解決のためにチャットボットを導入しました。
社内情報が部署ごとに散在していたことで、社員が欲しい情報を見つけられず、バックオフィスへの問い合わせが殺到していました。
チャットボット導入により、社員が社内ポータルサイトの情報にたどり着きやすい仕組みを構築し、問い合わせ件数を20%削減することに成功。
これにより、同じことを何度も説明する手間が省けて、業務の効率化に繋がっています。
活用事例③:三井不動産商業マネジメント株式会社
導入企業名 | 三井不動産商業マネジメント株式会社 |
事業内容 | 商業施設の運営 |
従業員数 | 1,347名 |
AI導入前の課題 | お客様からの「よくある質問」が多く、担当者が定型文で対応することが多かった |
AI導入成果 | 質問への返答を自動化することができ、業務効率化につながった |
三井不動産商業マネジメント株式会社は「ららぽーと」や「三井アウトレットパーク」などの、商業施設の運営を行っています。
施設利用者からの問い合わせ件数の削減とテナントとの打ち合わせ効率化のために、顧客問い合わせ向けと社内問い合わせ向けの両方でチャットボットを活用しています。
その結果、問い合わせ対応の負担を軽減し、多くの社員がチャットボットの利便性を実感しています。
今後は国内の商業施設すべてのWebサイトに、チャットボットを導入する予定です。
FAQシステムを活用した成功事例
FAQシステムを導入して成功した事例も紹介していきます。
活用事例①:株式会社森永乳業ビジネスサービス
導入企業名 | 株式会社森永乳業ビジネスサービス |
事業内容 | 不動産関連、保険代理業、リース関連、健康サービスなど |
従業員数 | 627名 |
FAQ導入前の課題 | 年間1,700時間もお問い合わせ対応工数がかかっている |
FAQ導入成果 | 問い合わせ対応時間33%減 |
森永乳業株式会社の子会社である「株式会社森永乳業ビジネスサービス」はお問い合わせ対応時間が年間で1,700時間を超えており、口数削減のためにFAQシステムを導入しています。
その結果、導入から2年間でお問い合わせにかかる工数を33%減にまで抑えることができました。
お問い合わせ回答の品質も向上しており、FAQシステムを使うことで各業務の担当者以外でもお問い合わせ対応が可能になっています。
活用事例②:株式会社LIXIL
導入企業名 | 株式会社LIXIL |
事業内容 | 住宅やビル向けの建材・設備機器の製造・販売 |
従業員数 | 55,624人 |
FAQ導入前の課題 | ユーザーが欲しい情報に辿り着けていない。複雑なお問い合わせに対応できない |
FAQ導入成果 | サイトの離脱率が43%から37%に改善。電話での問い合わせが5〜7%減少 |
トイレやお風呂のメーカーとして有名な株式会社LIXILでは、新しいFAQシステムを導入したことで
- サイトの離脱率が43%から37%に改善
- 電話での問い合わせが5〜7%減少
などの成果が出ています。
お客様が必要な情報にスムーズに辿り着けるようになり、お問い合わせを受ける担当者の負担もかなり減っています。
活用事例③:株式会社集英社
導入企業名 | 株式会社集英社 |
事業内容 | 流通・卸売・小売 |
従業員数 | 764名 |
FAQ導入前の課題 | FAQの管理とお問い合わせ対応履歴の記録がなかった |
FAQ導入成果 | FAQページの閲覧回数が2.5倍に増加し、お問い合わせメールの90%を24時間以内に回答できるようになった |
株式会社集英社が運営する通販サイト「 FLAG SHOP(フラッグショップ)」でFAQシステムが導入されています。
導入する前は、FAQの管理とお問い合わせ対応履歴の記録がなかったため、ユーザーの質問に対して正確な回答ができるまでに2日以上の時間がかかっていました。
FAQシステムを導入してからは回答のスピードが上がり、24時間以内にすべてのお問い合わせに返信ができるようになっています。
まとめ
この記事ではチャットボットとFAQシステムの違いについて解説していきました。
どちらもユーザーの疑問を解決するためのツールですが、お互いにメリットデメリットがあるので、導入の際は自社のニーズに合わせて選択するようにしましょう。