様々な業界で活用されているAIですが、通信業界で進むAI 通信技術を活用したAI 通信にはどのようなものがあるのでしょうか?
ここでは、通信業界の現在や課題を踏まえながら、実際に通信業界で導入されている通信 AI IoTの活用事例を紹介します。
通信業界の現在
社会のインフラには欠かせない通信業界ですが、ひと昔前は家に必ず1台は設置していた固定電話の回線を、現在ではスマートフォンをはじめとするインターネットを利用したモバイル接続サービスを提供してきました。
総務省発表の「令和元年度版 情報通信白書」によると、情報通信産業の実質GDPが99.8兆円ですが、これは全作業のうちの10.2%と全産業の中でも最大の規模です。
そして情報通信産業の中でも、電気通信事業は19.9兆円と高い売上比率を占めています。
また、通信業界のサービスに目を向けると、かっては主流であった固定回線ですが、スマートフォンや携帯電話が広く普及するにつれて固定回線の売上比率が減少し、スマートフォンなどの移動回線の売上比率が高まっています。
このように情報社会の変化に合わせるかのように、情報サービスの基盤である通信業のサービスも変化しているのです。
さらに、2020年からは新しい移動通信システムである「5G (第5世代移動通信システム)」を利用したサービスが始まりましたが、それによってより大きなデータ通信や処理を必要とするIoTやAI関連のサービス開発も盛んに進められると考えられています。
通信業界における課題
通信業界の現在については理解できたかと思いますが、では通信業界の課題にはどのようなものがあるでしょうか?
ここでは、通信業界における課題について見ていくことにします。
通信業界の課題①:高品質かつ安定した通信品質の提供
通信サービスは、24時間365日利用できるのが当たり前です。
そのため「電気通信事業法」では、通信サービスの不具合が国民生活や社会経済活動に深刻な影響を与える可能性があることから、基準が厳格に定められています。
その基準の高さは、わずか1時間程度の品質低下であっても総務大臣への申告義務が生じるほどシビアなものです。
そのため、高品質で安定した通信サービスの提供が、通信業界にとって最低限満たされなければなりません。
これまで通信業界では人による24時間監視が行なわれてきましたが、人手不足やヒューマンエラー防止の手段としてAI活用が注目されています。
内閣が主導している「Society5.0」でも、通信は社会にとってますます欠かせないものとなるため、今後はより高い水準の品質や安定性のあるAIを活用した通信サービスが求められるでしょう。
通信業界の課題②:多種多様なビジネスサービスへの対応
今後は次世代通信の普及とともに、多様なサービスが展開されることが考えられます。
サービスの内容によって通信で求められるものは異なるため、それぞれのビジネスに合った通信技術の展開が必要になるのです。
例えば自動車の自動運転では、車間距離の確認やハンドル操作など、それまで人間が判断していたものをAIを活用することでリアルタイムに判断する必要があります。
このように、製造、農業、自動車といった分野から、以前は通信サービスを必要としなかったものでも高品質な通信サービスが必要とされるようになってきました。
通信業界でのAIの活用事例
通信業界でも多種多様なビジネスサービスに対応するためにAIの活用は欠かせません。
ここでは、通信業界でのAIの活用事例をいくつか紹介します。
通信業界でのAI活用事例①:AIによる渋滞予測「AI渋滞予知」(NEXCO東日本/NTTドコモ)
携帯電話ネットワークの仕組みを利用して作成される人口統計と、過去の渋滞実績および規制情報等をかけ合わせ、人工知能(AI)を用いた「AI渋滞予知」をドコモが開発しました。
房総半島における人口分布をAIに機械学習させ、昼の人口分布から夕方の渋滞を予測するAI渋滞予知を行い、予測した渋滞予知を一般に公開することで帰宅時間帯の分散と周辺地域の活性化を促しました。
通信業界でのAI活用事例②:チャットボットにより顧客の利便性向上「FirstContact」(ネットアシスト)
電話やメールなどにいたらない新規のお客様のちょっとした質問をキャッチするという目的で、コーポレートサイトのトップページにチャットボット「AI こけしくん」を設置しました。
お客様からの問い合わせに対するハードルが下がったことで、お客様の利便性向上に繋がっているのではないかと考えられています。
通信業界でのAI活用事例③:社内問い合わせ自動化による業務効率化「HUE Chatbot」(丸紅)
社内問い合わせの業務効率化のために、国内最大規模の登録語彙がある自然言語処理辞書「SudachiDict」を備えたことで、曖昧な問いにも対応する「HUE Chatbot」を設置しました。
トライアルを利用し、FAQの改善が容易なだけでなく、フリーワード(自由入力)検索でもすぐに回答にたどり着けるので、質問者とのコミュニケーションが効率的になった点が評価されました。
通信業界におけるAI活用の未来
通信業界では生成系AIの活用が今後2年間で大きく拡大しましたが、これに伴い、生成系AIへの支出も急拡大する可能性があります。
この急拡大の大きな要因として、顧客対応チャットボットが生成系AIのユースケースとしていち早く普及したことが挙げられますが、検討している生成系AIのユースケースの多くが、既存のアプリケーションやプロセスではまだ実現されていない新たなアプリケーションだと考えられているのです。
ですが、生成系AIの活用には課題もあり、データセキュリティとガバナンスが生成系AI活用における最大の懸念だといえるでしょう。
そのため、ある通信事業者のIT部門責任者は、「会社のデータのセキュリティを確保し、第3者に使用されないよう徹底する必要がある」と述べています。
また、生成系AI活用における課題として技術的リソースの不足を挙げる通信事業者もいることから、通信事業者は、自社開発よりも、既存モデルの活用を想定し、既存の基盤モデルを社内の専有データで追加学習することで、各社それぞれのニーズに対応させたいと考えているようです。
まとめ
今回は、通信業界でのAI活用事例だけでなく、通信事業の現在や課題、通信業界におけるAI活用の未来について解説しました。
通信業界は社会で欠かすことのできないインフラであるため、高水準で安定したサービスを提供する必要があります。
AIだけでなく、5GやIoTの活用が進むにつれて、社会インフラとしての重要度もますます高まっていくはずです。
また、通信業界はAIの活用にも密接に関わっていることから、今後も多種多様なビジネスサービスに対してAIを活用した取り組みが期待されるでしょう。