「ビッグデータの活用」というワードを聞く機会が多くなってきて、自社でも活用できるのだろうかと考えておられませんか?
現代社会は、かつてない量のデータが生成されています。
その膨大なデータ群は「ビッグデータ」と呼ばれ、分析・活用することで事業に役立つ知見を導き出すことが可能です。
本記事では、身近なビッグデータの活用事例10選を紹介いたします。
データがどのように活用されているのかを理解し、自社事業に活用するヒントを見つけてくださいね。
ビッグデータとは:事業に役立つ知見を導出するための膨大なデータのこと
ビッグデータとは、事業に役立つ知見を導きだせる「巨大な」データ、従来のデータベースシステムでは処理しきれないほどの大量のデータのことです。
総務省では、「ビッグデータ」について以下のように定義しています。
ビッグデータとは何か。これについては、ビッグデータを「事業に役立つ知見を導出するためのデータ」とし、ビッグデータビジネスについて、「ビッグデータを用いて社会・経済の問題解決や、業務の付加価値向上を行う、あるいは支援する事業」と目的的に定義している例16がある
引用元:総務省|平成24年版 情報通信白書のポイント
上記定義にもあるようにビッグデータを収集利用する目的は、社会や経済活動に付加価値をもたらしたり、支えることです。
精度の高い情報からは、消費者の行動パターン、市場の動き、製品の改善ポイントといった、ビジネスに役立つ様々な知見を得ることができます。
そのためビッグデータの活用は、事業戦略の立案、新製品の開発、マーケティング戦略の策定など、多岐にわたる分野で欠かせないものとなっています。
ビッグデータの種類は大きく分けて3つ
ビッグデータは、その性質によって大きく3つのカテゴリーに分けられます。
- オープンデータ
- 産業データ
- パーソナルデータ
次に3つのカテゴリーの特徴についてご紹介いたします。
オープンデータ
オープンデータは、国や地方公共団体が所有するデータを、利用規約に基づいて誰でも自由に利用できるデータです。
総務省は、以下のように定義しています。
政府:国や地方公共団体が提供する「オープンデータ」
「オープンデータ」は、ビッグデータとして先行している分野であり、後述する『官民データ活用推進基本法』を踏まえ、政府や地方公共団体などが保有する公共情報について、データとしてオープン化を強力に推進することとされているものである。
引用元:総務省| ビッグデータの定義及び範囲
人口や世帯数などの公共情報は、社会活動をスムーズに進める上で不可欠な役割を担っていると言えるでしょう。
そのため総務省は、ルールに従って公共情報をデータとしてオープン化するように推進しています。
例えば、オープンデータとして取得可能なカテゴリ以下のようなものが挙げれます。
- 人口・世帯
- 運輸・観光
- 社会保障・衛生
参考資料:e-Gov|データセットカテゴリ
オープンデータの活用は、多様な視点からの情報分析を可能にし、公共性の高い価値を創出する機会を提供します。
産業データ
産業データは、企業が事業活動の中で生成・収集するデータです。
産業データについて、総務省は企業の「知のデジタル化」と「M2Mデータ」を合わせたものとしています。
「知のデジタル化」、及び「M2Mデータ」について総務省は以下のように定義しています。
企業:暗黙知(ノウハウ)をデジタル化・構造化したデータ(「知のデジタル化」と呼ぶ)
「知のデジタル化」とは、農業やインフラ管理からビジネス等に至る産業や企業が持ちうるパーソナルデータ以外のデータとして捉えられる。今後、多様な分野・産業、あるいは身の回りに存在する人間のあらゆる知に迫る、様々なノウハウや蓄積がデジタル化されることが想定される。
企業:M2M(Machine to Machine)から吐き出されるストリーミングデータ(「M2Mデータ」と呼ぶ)
M2Mデータは、例えば工場等の生産現場におけるIoT機器から収集されるデータ、橋梁に設置されたIoT機器からのセンシングデータ(歪み、振動、通行車両の形式・重量など)等が挙げられる。
引用元:総務省|ビッグデータの定義及び範囲
総務省の定義を参考にして産業データを簡単に説明すると、企業活動の中で発生する様々なノウハウやその蓄積をデジタル化した膨大なデータを指します。
さらに、マシンが生成する記録なども産業データと位置づけられます。
具体的に例を挙げると以下のようなデータが該当します。
- 購買データ
- 人流データ
- SNSデータ
- MtoMデータ(Machine to Machine)
- アクセスログ
これまで各企業が独自に保有していたデータを共有することで、より大規模かつ効率的な研究や開発が可能になりました。
各分野の開発や研究のスピードが向上し、産業ビッグデータが社会全体への貢献につながることが期待されています。
パーソナルデータ
パーソナルデータとは、氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどの個人情報を含む大きな枠組みのデータです。
総務省では、以下のようにパーソナルデータを定義しています。
「パーソナルデータ」は、個人の属性情報、移動・行動・購買履歴、ウェアラブル機器から収集された個人情報を含む。また、後述する『改正個人情報保護法』においてビッグデータの適正な利活用に資する環境整備のために「匿名加工情報」の制度が設けられたことを踏まえ、特定の個人を識別できないように加工された人流情報、商品情報等も含まれる。
引用元:総務省|ビッグデータの定義及び範囲
パーソナルデータは、個々の人が行動する際に生じる様々な情報を包括的に指します。
これには、個人情報も含まれます。
したがって、パーソナルデータという概念は、個人情報よりも広範に情報をカバーしていると言えるでしょう。
パーソナルデータの例を挙げると以下の通りです。
- 医療健康情報
- 位置情報
- YouTubeなどの動画視聴履歴
パーソナルデータは、個人に関する情報を含むため、その取り扱いには十分な注意が必要となります。
しかし、マーケティング戦略や商品開発においてとても重要なデータと言えるでしょう。
ビッグデータを分析・活用した身近な例10選
ここまでビッグデータが大きく分けて、3つのカテゴリーに分類されることをお話しました。
大切なのは、ビッグデータがどのように活用され事業に役立つ知見が導き出されているかです。
ここからはビッグデータを分析・活用した身近な例を10選ご紹介いたします。
1|ローソン:ビッグデータで顧客満足度向上
「1割のヘビーユーザーが6割の売り上げを占める」という有名な言葉は、ローソンのビッグデータ解析から導き出された結果です。
ローソンは、「Pontaカード」の利用データから、顧客の嗜好や購買傾向を解析しました。商品力指数やリピート率を指標に、売れ筋商品だけでなく熱狂的なファンを持つ商品も継続販売しています。
例えば、「ほろにがショコラブラン」という菓子パンは、売上順位は31位と決して高くありません。しかし、データ分析から一部の女性から頻繁にリピートされていることが判明しました。
ローソンは、ビッグデータ分析を通して顧客の声を可視化する努力をしています。顧客一人ひとりに最適な商品とサービスを提供することで、顧客満足度向上と売上アップを実現しています。
2|スシロー:データに基づいて1分後と15分後の需要を予測
スシローは、回転寿司業界でトップクラスの売り上げを誇る企業です。その成功を支えるのが、ITを活用したデータ分析です。
具体的には、各皿にICチップを取り付け、顧客のニーズを把握しています。全国、海外のスシロー店舗で得られるビッグデータを分析し、皿をレーンに置いてから、消費されるまでの時間等をデータ化しました。
このデータに基づいて1分後と15分後の需要を予測し、寿司を製造することで、鮮度を保ちながら顧客に提供することができます。こうした取り組みの結果、スシローは顧客満足度向上と売上増加、食品廃棄ロス減少を実現しています。
参考資料:スシロー、ビッグデータ分析し寿司流す 廃棄量 75%減
3|ベネッセ:260万人もの学習記録データを活用
ベネッセは、260万人もの学習記録データを活用し、教育の個別化と学習効果の向上を目指しています。
学習時間や教材の利用状況、問題の正誤など、様々なデータを収集し分析することで、一人ひとりの学習スタイルや理解度を把握するよう努力しました。
その結果、生徒それぞれの理解度に応じた適度な量と、難易度の教材を提供することを可能にしました。さらに、苦手分野の克服をサポートしたり、学習意欲を高めるモチベーションを高める工夫にも役立てています。
参考資料:ビッグデータの利活用で一人ひとりが自ら学び続けられる世界を実現
4|アマゾン:ビッグデータで顧客ニーズを先読み
アマゾンは世界中にデータセンターを置き、自社のAWSというシステムを活用し、顧客のニーズに合った商品やサービスを提供しています。
Amazonの購買履歴、広告への反応、Prime Videoの視聴履歴、Alexaの利用状況など、さまざまなビッグデータを分析し続けてきました。具体的には、顧客の行動を解析して推奨商品を表示したり、広告効果を測定して最適な広告を配信したりしています。
また、視聴履歴に基づいて推奨コンテンツを提案したり、Alexaの利用状況を分析して顧客のニーズに合わせたサービスを提供したりしています。これらの取り組みにより、アマゾンは各顧客に最適な体験を提供し、世界最大のECサイトに成長しました。
5|医療:在宅医療を支えるビッグデータ
ビッグデータは、医療の現場で効率化と質の向上を実現するための重要なツールとなりつつあります。医療現場で発生する患者の健康情報、診断結果、治療経過などのビッグデータ分析は、医療の直面する問題の解決口を見出すことができます。
例えば、筑波大学の「訪問診療を受ける高齢患者における頻回往診を予測するリスクスコア」についての研究をご紹介しましょう。筑波大学のチームは、医療ビッグデータを解析し、高齢者の頻繁な訪問診療を予測するスコアを作成しました。スコアが作成されたことにより、医療的ニーズが高く訪問診療の頻度も高くなる可能性のある患者さんに、事前に適切な医療機関を紹介できます。
その結果、患者と家族の満足度が向上し、質の高い在宅医療の提供、医師の負担軽減に役立ちます。さらに、在宅医療が飽和状態になることを防ぐことも可能です。医療ビッグデータの解析により、医療の未来はより効率的で、患者中心のものになると期待されています。
参考文献:筑波大学|医療介護ビッグデータを活用した 在宅医療に関するヘルスサービスリサーチ
6|防災:人流データ分析により災害対策
ビッグデータ分析は、災害対策や防災の重要なツールとなっています。
例えば、ソフトバンクのグループ会社である株式会社Agoop(アグープ)は、人流データを活用した災害対策の実証実験を行っています。具体的には、「避難行動分析」や「異常検知AI」を用いて、平常時の人流データ分析を災害時に役立てるというものです。
災害時には、情報を得るための通信手段が遮断され、どこに救援が必要であるかを把握することが難しくなります。そのため、Agoopは災害発生時の人々の避難行動を予測するために、人流データとAIを用いた解析と実験を行ってきました。これにより従来の避難所や避難経路で安全を確保できるのか可視化することに成功。
さらに、災害時の救援必要箇所を予測するシステムにも期待が高まっています。ビッグデータの活用により、人々の安全を確保し、災害時の混乱を減らすことが期待されています。
参考資料:平常時の人流データを防災に生かす。ビッグデータとAIを活用した実践的避難訓練
7|観光:観光客の行動と気持ちをつなげる取り組み
神戸市は、観光ビッグデータを活用してサイト閲覧ページ数が約2倍になりました。神戸市は企業と共同で2014年からビッグデータ解析に力を入れてきました。
主に観光客の行動と気持ちをつなげる取り組みを行っています。具体的には、観光公式サイト「FeelKOBE」を訪れるユーザーを6つのクラスタに分け、それぞれの旅の嗜好性を反映したバナー広告を展開。
また、観光客の位置や天候の情報をリアルタイムで解析し、次の観光訪問先へのナビゲーションを提供しました。これにより、サイトの閲覧ページ数は約2倍に増え、観光地としての情報への関心と観光客の満足度が高まりました。
参考資料:神戸市が取り組む「旅行者の気持ちと行動をつなぐ」観光ビッグデータ活用法
8|農業:ビッグデータを活用により農薬散布の最適な時期を推定
農業分野では、人手不足や品質の不安定化といった課題があり、これらを解決するためにAIやビッグデータの活用が求められています。
具体的な活用例としては、オプティムが提供する気象ビッグデータを活用したドローン適期防除サービス等があげられます。最適な農薬散布タイミングを推定し、ドローンで散布してくれるサービスです。これには「1kmメッシュの高精度気象情報」が元になって、農薬散布の最適な時期が推定され決定されています。
これまで農薬散布は農家の方の知識、経験,勘に頼って行われて来ました。しかし、気象ビッグデータの解析により効果の最も高い時期に、農薬を散布できるようになり喜ばれています。さらにビッグデータ解析とドローンを組み合わせることにより、高齢化や人手不足解消にも役立つと期待されています。
参考資料:農家の知見をスマート農業で実現する「ピンポイントタイム散布サービス」とは
9|自動車:走行データ分析により道路の安全性向上
Hondaは、車の走行データを都市計画や交通安全、渋滞解消、防災・減災などに活用しています。
車の走行データとは、走行ルート、急ブレーキ回数や道路の段差などの車両の揺れといった情報です。例えば、車の揺れに関するデータは、道路の状態やひずみの発見に役立てられています。
さらに急ブレーキ箇所のデータは、街路樹の剪定時期や、標識の設置場所を検討し、見通しの良い道路作りに役立てられています。
そして、Hondaは車両の走行データを活用して、店舗の出店計画を立てるなどの新たなビジネスモデルも開発中です。車の走行データというビッグデータを分析することにより、道路の安全性向上や交通事故の予防、災害時救援に役立てるなど多岐にわたり活用されています。
参考資料:「自動車×ビッグデータ」 まちづくり・防災に活かすクルマのデータとは
10|金融:ビッグデータ活用により顧客の特性や理解を深める
金融業界では、ビッグデータをAIを用いて高精度な解析処理された情報を取り扱っています。金融機関にとって多くの情報を包括的に含むビッグデータの情報は、先行きや現在の社会の同行を知る上で重要な情報元になるからです。
例えば、SNSやブログなどに含まれる動画、ポスト、などは人々の関心や動向を知るのに重要なデータです。また、付加価値の高い商品を提供する為には、顧客1人1人の必要や満足度に対する理解を深めなければなりません。これらのことを行う上でもビッグデータとAIの働きが欠かせない時代になっています。
なぜなら収集しなければならないデータは膨大で、アナログでは解析できないほどの量だからです。そのため顧客の特性やニーズに対する理解を深めるために、現在ビッグデータとAIが活用されています。
参考資料:人工知能とビッグデータの金融業への活用
ビッグデータを活用するメリット
ビッグデータのメリットは、データ分析の精度が高いことです。
ビッグデータは従来のデータベースでは処理しきれない量のデータを扱うので、より顧客にマッチした精度の高い情報が得られます。そのためビッグデータ活用10選に見られるように、多くの分野で効果を発揮してきました。
マーケティングや広告では、購買データやSNS投稿を分析し、顧客理解を深め、満足度を向上させるための広告配信や商品開発に活用されています。また、防災、医療、観光などにもビッグデータが活用され、これまで以上に効率的で質の高いサービス提供が可能となりました。
ビッグデータの活用は、新たなビジネスの創出や社会問題の解決にも寄与していると言えるでしょう。
まとめ:身近なビッグデータの活用事例を参考に、データを活用しよう
ビッグデータの利用は私たちの生活にも密接に関わっています。
身近なビッグデータの活用事例を参考に、自身のビジネスでもビッグデータの活用を考えてみましょう。
適切に活用すれば、効率的なサービス提供や新たなビジネスの創出、さらには社会問題の解決にも繋がる可能性があります。
ビッグデータを活用して、自社のサービスを向上を検討されてみるのはいかがでしょうか。