百貨店業界は、顧客の満足度を常に更新し続ける必要があり、さらにその中で競争が激化する中で、革新的な解決策を求めています。
このような状況の中、AI技術を活用することで、百貨店は顧客体験の向上、運営の効率化、そして売上の増加を実現しています。
本記事では、AIが百貨店業界の課題をどのように解決し、業界を再定義しているのかを紹介します。
百貨店が抱える課題
インターネットが普及した現代、百貨店業界は重要な課題に直面しています。
なかでも、特に大きな課題は次の2つです。
- 人手不足
- ニーズの多様化
これらの課題を理解し、適切な対策を講じることが業界の持続的な成長に不可欠です。では、その詳細を深堀していきましょう。
課題①:人手不足
大きな課題1つめは、百貨店業界の人手不足です。
少子高齢化が進む日本では、若年層の雇用を確保することが難しくなっています。
特に、業績が悪化している百貨店では、人件費の削減からさらに人手不足となる傾向にあります。
結果、顧客とのコミュニケーションが希薄化し、売上げ低下につながります。
課題②:ニーズの多様化
百貨店業界の大きな課題2つめは、ニーズの多様化です。
インターネットの発展により多くの情報を得ることが出来るようになったため、消費者の嗜好が多様化しました。
また、若年層は低価格の商品購入に流れる傾向にあり、従来のラグジュアリーブランドに対する需要が減少しています。
さらに、消費者は単に商品を購入するだけではなく、体験やコミュニケーションを求める傾向が強くなっています。
百貨店も、このような多様化したニーズに対応していく必要があるといえるでしょう。
百貨店でAIを活用するメリット
先ほど挙げた百貨店業界の課題に対処するには、現代で急速に発展しているAIを活用することが望まれます。
百貨店でAIを活用するメリットは、次の4つが挙げられます。
- 顧客とのコミュニケーション強化
- 顧客ニーズの把握とそれによる商品開発の改善
- 業務の効率化
- コスト削減
百貨店業界でAIを活用することで生まれるそれぞれのメリットについて、詳しく解説します。
メリット①:顧客とのコミュニケーションの強化
百貨店運営に24時間365日対応可能AIチャットボットを導入すれば、問い合わせ対応などの顧客サポートを24時間365日迅速に対応することが可能になります。
人手不足の百貨店業界では困難とされている夜間や閉館日の顧客対応も、AIがカバーすることで顧客満足度を向上させることができます。
人手不足やニーズの多様化により課題となっていた「顧客コミュニケーション」に対して対策を講じることができるのは大きなメリットといえるでしょう。
さらに、一貫性のある対応ができることもメリットの1つです。
AIを活用すれば、同じ問い合わせに異なる回答をしてトラブルになる、という場面がなくなります。
総じて、AIを活用することで百貨店は顧客とのコミュニケーションを強化し、サービス品質を向上させることができます。
メリット②:顧客ニーズの把握とそれによる商品開発の改善
AIなら、人間が行うよりも迅速かつ客観的に大量のデータを分析し、顧客の購買履歴や嗜好を理解してくれます。
これにより、需要予測が正確になり、在庫管理や新商品の開発に活かすことが可能です。
また、パーソナライズされた商品提案を行うこともできるため、顧客の満足度を高めます。
さらに、大量データからトレンドを特定したり、購買履歴やクリック履歴から顧客に最適な商品を推薦したりすることもAIは可能です。
そして、新商品のアイデアの提案に対しても、AIがデータ分析の視点から補助をしてくれます。
ニーズの多様化が課題とされる現代、AIの導入は百貨店にとって顧客ニーズの把握と商品開発の改善に不可欠といえるでしょう。
メリット③:業務の効率化
現在従業員で行っている繰り返しの業務をAIに任せることで、業務の効率化を進められます。
そして、従業員はより戦略的な業務に集中できるようになり、業績向上につなげることができます。
AIを導入して百貨店の業務を効率化できる主な場面は以下のとおりです。
- 自動化タスク
- 繰り返しのタスクは、AIで自動化させることが望ましいです。例えば、在庫管理や注文処理などの業務です。
- データ分析と予測
- 大量データの客観的分析は、人間の手よりもAIのほうが効率的かつ正確です。また、キャンペーンの効果測定にも応用することができるでしょう。
- 顧客サービスの向上
- AI搭載の自動応答システムを活用すれば、顧客の問い合わせにも迅速かつ正確に対応できます。顧客満足度の向上と顧客ロイヤリティの向上につながることでしょう。
これらのことから、AIは百貨店運営の業務効率化に大きく寄与するということがいえます。
メリット④:コスト削減
百貨店にAIを導入すれば、様々なコストの削減につながります。
なかでも、次の3点におけるコスト削減が投資対効果(ROI)に大きく貢献するとみられます。
- 従業員の労働時間の削減
- 例えば、顧客からの問い合わせや顧客サポート業務にAIチャットボットを導入すれば、従業員の残業や新たな従業員の雇用コストを削減できます。
- 過剰在庫や商品廃棄の削減
- 在庫管理や商品配置に対してAIのデータ分析を活用すれば、過剰在庫や商品廃棄を減らし、ロスを最小限に抑えることができます。
- マーケティングコストの削減
- 顧客の購買データの分析にAIを活用すれば、マーケティングコストを削減し、最適なプロモーションや特典を提供することが可能になります。
このように、AIの導入は投資対効果(ROI)の高いコスト削減を行うことができます。
百貨店でAIを活用するデメリット・注意点
先に述べてきたように、百貨店運営にAIを導入するメリットは多くある一方で、デメリットや注意するべき点もあります。
AIを活用する際には、次の2点を注意して順守すべきでしょう。
- AIと従業員との連携
- 誤情報の提供の防止
これらそれぞれの点について、詳しく解説します。
デメリット・注意点①:AIと従業員との連携
百貨店運営にAIを導入する際には、「AIと従業員との連携」に注意すべきでしょう。
主に次のような問題が起こる可能性があります。
- AIに対する理解不足によるエラー
- プライバシーやセキュリティに対する注意不足
- 顧客の「感情」に対する配慮不足
AIを導入しても、実際に使用する人間が正しい使用法を知らないと、AIが誤った行動をとったり、顧客の問題が解決されなかったりする可能性があります。
また、プライバシーとセキュリティの観点からも、従業員が個人情報を適切に取り扱わなくてはなりません。
そして、AIでは読み取ることのできない顧客の感情は従業員が理解して、業務に活かす必要があります。
総じて、AIと従業員それぞれの利点を活かして、適切な連携をとることが不可欠です。
デメリット・注意点②:誤情報の提供の防止
百貨店でAIを活用する際、誤った方法でAIを活用すると、誤情報が顧客に提供される恐れがあります。
AIは人間が与えたデータに基づいて動作するため、誤った情報を与えれば、出力される内容も誤ったものになります。
この問題が起きると、顧客の信頼を損なうことに直結します。
誤情報の提供を防止するためには、従業員もAIも適切なトレーニングが必要です。
AIの判断基準やロジックをしっかりと検証したうえ、従業員が理解する必要があるでしょう。
百貨店でのAI活用事例
百貨店におけるAIの活用では、需要予測に対して用いられているケースがみられます。
以下は、実際の導入事例です。
活用事例①:ベーカリー部門にSaaS型のAI需要予測サービス「AIsee」を導入(大丸松坂屋百貨店)
導入企業名 | 株式会社 大丸松坂屋百貨店 (Daimaru Matsuzakaya Department Stores Co.Ltd.) |
事業内容 | 百貨店業 |
従業員数 | 3,546名(2022年2月現在) |
AI導入前の課題 | ・既存のECは機能が限定的で、店舗で実施しているサービスなどを反映できなかった。 ・店舗とECを問わず、お客様の行動をシームレスに把握し、理解を深めたい。 ・複雑化しているシステム構成をシンプルにし、開発などにかかる工数を削減したい。 |
AI導入成果 | ・百貨店ECに求める機能を実現。 ・1つのIDでECやお得意様向けのクローズドサイト、アプリにログイン。 ・店舗とECを横断してお客様を理解し、新しい提案を行う体制が整った。 |
大丸松坂屋百貨店は、ベーカリー部門にSaaS型のAI需要予測サービス「AIsee」を導入しました。
様々なデータを活用して自動的にAI予測を行い、見通しや予測をサポートします。食品ロスを前年比で最大7%削減したようです。
活用事例②:AIカメラを活用した「来店目的」可視化プロジェクトを開始(そごう・西武)
導入企業名 | 株式会社そごう・西武 |
事業内容 | 百貨店業 |
従業員数 | 4,335名(2023年2月末現在) |
AI導入前の課題 | ・「お客さまの固定化」が進んでいたことが課題の一つで、百貨店の売上を担うお客さまは高齢層に固定されつつあると予想していた。 ・しかし、会員カードによってお客さまのデモグラ情報を取っていたが、カード契約をしているお客さまだけでは、限定的なデータしか取れなかった |
AI導入成果 | ・エッジAIカメラを使って来店者の分析を進め、店舗改装やイベント企画のヒントにしている。 |
従来の来店者数と購入情報のみのデータ取得から進化し、AIカメラと行動分析技術を用いた実証実験を通じて、特定フロアの時間帯ごとの来店者数と顧客属性の推定、さらに来店客のフロア間移動履歴が可視化されました。
この分析を基に品揃えや店舗レイアウトの改善を行い、顧客体験価値の向上を目指します。
特に、20代の来店客が他のフロアを経由して食品フロアに来る「非目的買い」の傾向があり、この層に対する品揃えや催事の開催が若年層顧客の取り込みに効果的であることが示されました。
これらの事例から、AIによる需要予測がさらに発展していくこと、そして百貨店業界の競争が激しくなることが推察されます。
百貨店業界で生き残るためには、AIの導入の必要性がより高まっていくことでしょう。
まとめ
インターネットが普及し、あらゆる情報を誰もが手に入れることができる現代、多様化したニーズへの対応が百貨店には求められています。
また、少子高齢化により人材不足も懸念されています。
そこで、百貨店運営にもAI技術を導入することで、これらの課題に対処することが望ましいです。
実際にAIを導入する事例も増えているため、AIの導入により百貨店業界全体の競争力も増していくことでしょう。