カナダの主要メディア5社が2023年11月29日、人工知能企業OpenAIに対して著作権侵害訴訟を提起しました。訴訟の焦点は、同社の対話型AI「ChatGPT」の学習データとして、許可を得ずにニュース記事が使用された点にあります。
訴訟の概要
原告となったのは以下の5社です。
- カナダ放送協会(CBC)
- トロント・スター
- グローブ・アンド・メール
- カナダン・プレス
- ポストメディア
これらの報道機関は、オンタリオ州上級裁判所に84ページに及ぶ訴状を提出し、1記事あたり最大2万カナダドル(約214万円)の損害賠償を請求しています。対象となる記事数によっては、総額で数千億円規模に達する可能性があります。
主張の要点
原告団は共同声明で、技術革新自体は歓迎しつつも、以下の点を強く主張しています。
- 著作権の使用は公正な条件の下で行われるべき
- 記者や編集者が膨大な労力をかけて生み出した成果が不当に利用されている
- 商業的利益のための無断利用は公益に反する
一方、OpenAIは「著作権の国際原則に基づいている」と反論し、以下の対応を行っていると説明しています。
- ニュースパブリッシャーとの緊密な協力
- 検索結果表示やリンク付与の実施
- コンテンツのアトリビューション(出典明示)
- オプトアウト(参加拒否)オプションの提供
業界の分断
この問題に対する報道業界の対応は二極化しています。
今後の展望
この訴訟は、AIの発展とコンテンツ創造者の権利保護という現代的な課題を提起しています。コロンビア大学の研究によれば、OpenAIとの提携の有無にかかわらず、出版社のコンテンツが不正確に表現されている実態も指摘されています。
司法判断の行方は、AIとジャーナリズムの今後の関係性を大きく左右する可能性があります。特に以下の点が注目されます。
- フェアユースの解釈と範囲
- AI学習における著作権の扱い
- デジタル時代における報道機関の収益モデル
- 技術革新と法的規制のバランス
この問題の解決には、技術発展と知的財産保護の両立という困難な課題に向き合う必要があります。業界全体が、この歴史的な訴訟の行方を注視しています。