AI技術の急速な発展は、エンターテインメント業界にも大きな変革をもたらしています。特に注目を集めているのが、AIを活用したタレントマネジメントの可能性です。
ChatGPTに代表される自然言語処理AIは、タレントとのコミュニケーションや、スケジュール管理、契約書の作成など、多岐にわたる業務を効率化できる潜在力を秘めています。さらに、AI自身がタレントとして活躍する日も遠くないかもしれません。
本記事では、タレント業界におけるAI・ChatGPTの活用事例を紹介するとともに、AIタレントのマネジメントシステムや事務所の未来像について探っていきます。
現状のタレント業界の課題とは?
まず、タレント業界が現状抱えている課題を見ていきましょう。
課題①:タレントの発掘と育成の難しさ
タレント業界では、新たな才能を発掘し、育成することが重要ですが、そのプロセスには多くの時間と資源が必要です。オーディションの開催、適切な育成プログラムの提供、マーケティング戦略の策定など、タレントを成功に導くためには様々な取り組みが求められます。しかし、業界の競争が激しく、確実に成功するタレントを見極めることは容易ではありません。
課題②:タレントの価値の変動性
タレントの価値は、人気や話題性によって大きく左右されます。一時的な人気は収入増加につながる一方で、人気の下降は収入減少を招きます。
また、スキャンダルや不祥事によってタレントの評判が損なわれた場合、その価値は大きく下がってしまいます。このようなタレントの価値の変動性は、事務所にとって大きなリスクとなっています。
課題③:契約交渉の複雑さ
タレントの契約交渉は、出演料、肖像権、スケジュールなど、多岐にわたる項目を網羅する必要があります。
また、タレントによって希望条件が異なるため、個別の交渉が必要となります。これらの交渉を円滑に進めるには、豊富な経験と専門知識が求められます。
さらに、契約書の作成や管理にも注意が必要です。
課題④:タレントのメンタルヘルスケア
タレントは、常に注目を浴びる環境で働いているため、ストレスを感じやすい傾向にあります。過度な仕事量、プライバシーの欠如、ネット上の誹謗中傷など、メンタルヘルスに悪影響を与える要因は多岐にわたります。事務所は、タレントのメンタルヘルスをサポートし、適切なケアを提供する必要がありますが、そのための体制作りは簡単ではありません。
課題⑤:デジタル化への対応
SNSの普及によって、タレントの活動はデジタル空間に広がっています。YouTubeやInstagramなどのプラットフォームを通じて、タレントは直接ファンとつながることができます。
しかし、デジタル空間での活動は、従来の広告出演やテレビ出演とは異なるスキルが必要とされます。事務所は、デジタル時代に適応したタレントのマネジメントや育成方法を模索する必要に迫られています。
タレント業界でAI・ChatGPTを活用するメリットとは?
タレント業界でAIやChatGPTのような技術を活用することには、多くのメリットがあります。以下にその主な利点を5つ紹介します。
メリット①:タレントの発掘と育成の効率化ができる
AI技術を活用することで、膨大な応募者データから有望なタレントを見つけ出すことができます。応募者の経歴、スキル、特徴などをAIが分析し、最適なタレント候補を選定することで、発掘プロセスを大幅に効率化できます。
また、AIによるパーソナライズされた育成プログラムの提供により、タレントの強みを伸ばし、弱点を補うことが可能になります。これにより、タレントの能力を最大限に引き出し、早期の成功を実現できます。
メリット②:タレントの価値予測とリスク管理
AIを用いてソーシャルメディア上のデータを分析することで、タレントの人気や話題性を予測することができます。これにより、事務所はタレントの価値を適切に評価し、マーケティング戦略を最適化することが可能になります。
また、AIによるタレントの行動分析やリスク予測により、スキャンダルや不祥事を未然に防ぐことができます。これらのリスク管理により、タレントの価値下落を最小限に抑えることが期待できます。
メリット③:契約交渉の自動化と最適化ができる
ChatGPTのような自然言語処理AIを活用することで、契約交渉の自動化が可能になります。タレントの希望条件や過去の契約データをAIに学習させることで、個々のタレントに最適な契約条件を提示できます。
また、AIによる契約書の自動生成や管理により、事務作業の効率化も実現できます。これにより、事務所は契約交渉に割く時間と労力を大幅に削減し、より戦略的なタレントマネジメントに注力できるようになります。
メリット④:タレントのメンタルヘルスサポートができる
AIを活用したチャットボットやモニタリングシステムにより、タレントのメンタルヘルスをサポートすることができます。タレントとAIとの対話を通じて、ストレスや悩みを早期に発見し、適切なアドバイスやリソースを提供することが可能になります。
また、AIによるソーシャルメディア上の誹謗中傷の検知とフィルタリングにより、タレントへの悪影響を最小限に抑えることができます。これらのサポートにより、タレントのメンタルヘルスを維持し、安定したパフォーマンスを引き出すことが期待できます。
メリット⑤:デジタル時代に適応したタレントマネジメントができる
AIを活用することで、デジタル空間でのタレントの活動を最適化できます。YouTubeやInstagramなどのプラットフォームでの動向をAIが分析し、最適な投稿内容やタイミングを提案することで、タレントの影響力を最大化できます。
また、AIによるファンとのインタラクション分析により、タレントとファンとの関係性を強化するための戦略を立てることができます。
さらに、バーチャルタレントの開発にAI技術を活用することで、新たなビジネスチャンスを創出することも可能です。これらのAI活用により、事務所はデジタル時代に適応したタレントマネジメントを実現できます。
タレント業界でAIを導入するデメリットや注意点
タレント業界でAIを導入する際には、多くのメリットが期待される一方で、いくつかのデメリットや注意点も存在します。以下にその主なものを3つ挙げて詳しく解説します。
デメリット・注意点①:AIの判断の限界と倫理的課題
AIは膨大なデータから学習し、パターンを認識することで意思決定を行いますが、その判断は完璧ではありません。特に、タレントの評価や育成においては、感情や人間性といった定量化が難しい要素も重要です。AIによる画一的な判断は、タレントの多様性を損ねる恐れがあります。
また、AIによるタレントの選定や契約交渉には、公平性や差別の問題が付きまといます。AIの判断に偏見が含まれていないか、倫理的な観点からの検証が必要不可欠です。
デメリット・注意点②:タレントとのコミュニケーションの希薄化
AIを導入することで、タレントとのコミュニケーションが減少し、人間関係が希薄になる可能性があります。タレントマネジメントにおいては、タレントとの信頼関係の構築が非常に重要です。AIによる自動化された対応では、タレントの細かなニーズや感情を汲み取ることが難しくなります。
また、タレントがAIとのコミュニケーションに不満を感じ、モチベーションが低下する恐れもあります。AIを活用しつつ、タレントとの人間的な触れ合いを大切にするバランスが求められます。
デメリット・注意点③:AIシステムへの過度な依存とセキュリティリスク
AIシステムを導入することで、業務の効率化が図れる一方で、システムへの過度な依存が生まれる可能性があります。AIシステムが停止or誤作動した場合、業務が滞る恐れがあります。
また、AIシステムには大量の機密情報が集約されるため、サイバー攻撃のターゲットになりやすいという問題もあります。タレントの個人情報や契約内容などの機密データが流出した場合、深刻な被害につながります。AIシステムを導入する際は、適切なバックアップ体制とセキュリティ対策を講じる必要があります。
AIは、タレント業界に大きな可能性をもたらす一方で、導入には十分な注意が必要です。AIの判断の限界を理解し、倫理的な課題に配慮しながら、タレントとのコミュニケーションを大切にすることが求められます。
また、AIシステムへの過度な依存を避け、セキュリティ対策を徹底することも重要です。AIの力を活用しつつ、人間の感性や判断力を活かすことで、より良いタレントマネジメントが実現できるでしょう。
タレント業界での具体的なAI・ChatGPTの活用方法
タレント業界では、AIやChatGPTのような技術を多様な方法で活用することができます。ここでは、その具体的な活用方法を5つ挙げて詳しく解説します。
活用例①:仮想タレントのマネジメント
AI技術を活用して、完全に仮想のタレントを作り出すことができます。3Dモデリングとモーションキャプチャー技術を用いて仮想タレントの見た目や動きを作成し、ChatGPTのような自然言語処理AIを用いて会話能力を実装します。仮想タレントは、24時間365日働くことができ、人間のタレントでは不可能な過酷なスケジュールもこなすことができます。
また、年齢や容姿が変化せず、スキャンダルのリスクもありません。仮想タレントは、バーチャルライブやソーシャルメディア上での広告塔として活躍することが期待されています。
活用例②:オーディションの自動化
AIを用いて、オーディションの申込み受付や書類選考を自動化することができます。応募者の情報をAIが分析し、必要条件を満たす候補者を自動的に選定します。
また、動画オーディションの場合、AIが応募者の演技や歌唱力を評価し、上位候補者をピックアップすることができます。これにより、オーディションの初期段階に係る時間と労力を大幅に削減できます。
また、AIによる公平な評価により、選考の透明性も向上します。
活用例③:タレントの育成支援
ChatGPTを活用して、タレントの育成をサポートすることができます。タレントとChatGPTとの対話を通じて、演技や歌唱、トーク力などのスキルを向上させるトレーニングを行います。ChatGPTが的確なアドバイスやフィードバックを提供することで、タレントは効率的にスキルを磨くことができます。
また、タレントの弱点や課題をChatGPTが分析し、個人に合わせたトレーニングプランを提案することも可能です。AIによるパーソナライズされた育成支援により、タレントの成長を加速させることができます。
活用例④:ファンエンゲージメントの強化
ChatGPTを活用して、タレントのSNSアカウントでのファンとのインタラクションを自動化することができます。ファンからのコメントやメッセージに対して、ChatGPTが適切な返信を生成し、ファンとの対話を行います。これにより、ファンは自分のメッセージにタレントが反応してくれたと感じ、タレントへの愛着を深めることができます。
また、ChatGPTがファンの嗜好や関心を分析することで、ファンに合わせたコンテンツを提供することも可能です。AIによるファンエンゲージメントの強化により、タレントのファンベースを拡大し、収益機会を増やすことが期待できます。
活用例⑤:契約書の自動生成
ChatGPTを活用して、タレントの出演契約書を自動生成することができます。タレントのプロフィールや条件、過去の契約実績などの情報をChatGPTに入力することで、それらを考慮した契約書のドラフトを自動的に作成します。この際、ChatGPTが法的な知識を持っていれば、契約書に必要な条項や注意点を漏れなく盛り込むことができます。
また、タレントやクライアントとのやり取りの中で、ChatGPTが契約条件の交渉や修正を行うことも可能です。AIによる契約書の自動生成により、契約プロセスの効率化とミスの削減が期待できます。
タレント業界でのAI活用の導入事例
以下でタレント業界で、実際に活用されているAIを紹介していきます。
導入事例①:AIコミュニケーションサービス「Kirara.AI」(株式会社neverspace)
導入企業名 | 株式会社neverspace |
事業内容 | コミュニケーションAIシステムの提供、システム受託開発、コンサルティング |
従業員数 | 不明 |
株式会社neverspaceは、実在の芸能人やインフルエンサーとAIを用いて疑似的な会話を体験できるサービス「Communicaiton.AI」の提供を開始します。第一弾として、タレントの明日花キララさんとLINE上で会話ができる「Kirara.AI」をリリースしました。
- 「Kirara.AI」は、AI技術を用いて明日花キララさんの性格や声色、話し方、文章を最大限再現しており、まるで本人とコミュニケーションをとっているような体験ができます。明日花キララさん本人の全面協力のもと、音声収録や多数のインタビューを実施し、AIモデルを開発しました。
- 利用方法は、LINEアカウントを友達追加し、プロフィールの認証後、テキスト入力で会話を楽しむことができます。AIからはテキストと音声で応答があり、プランによっては未公開の写真や動画が送られてくる予定です。
- 当社はAI技術を用いて、エンタメとテクノロジーの未来を創ることをミッションとしています。「Kirara.AI」では、今後画像や動画のやり取り、通話機能の実装に取り組むとともに、他の芸能人やキャラクターでの展開も進行中です。
将来的には、芸能事務所やIPコンテンツとの連携、広告プロモーションの新たな体験としての活用など、AI技術でエンタメ領域をより魅力的なものへと進化させていくビジョンを持っています。
導入事例②:AIタレントマネジメントシステム「タレントパレット」(株式会社プラスアルファ・コンサルティング)
導入企業名 | 株式会社プラスアルファ・コンサルティング |
事業内容 | 1. マーケティングソリューション事業 ・顧客体験フィードバックシステム「見える化エンジン」開発・運営 ・FAQソリューション「アルファスコープ」開発・運営 2. CRMソリューション事業 ・CRM/MAシステム「カスタマーリングス」開発・運営 3. HRプラットフォーム事業 ・タレントマネジメントシステム「タレントパレット」開発・運営 |
従業員数 | 305名 |
導入事例③:AIチャットボットサービス「タレントAI Chat」(株式会社博報堂/株式会社Trippy)
導入企業名 | 株式会社博報堂 |
事業内容 | ・マーケティング ・クリエイティブ・アクティベーション ・PR ・コンサルティング ・事業開発 ・メディア&コンテンツ ・テクノロジー・R&D |
従業員数 | 3,711名 |
株式会社博報堂ミライの事業室と株式会社Trippyが共同開発したAIチャットボットサービス「タレントAI Chat」の第一弾タレントに、俳優・モデルの鈴鹿央士さんが決定しました。
- 「タレントAI Chat」は、大規模言語モデル「ChatGPT」の技術を活用しており、日本テレビ系秋のイベント「カラダWEEK」内の企画「47都道府県対抗ウオーキングバトル」に、「AIおーじくん」というAIキャラクターとして登場します。
- 参加者はLINE上で「AIおーじくん」と友だち追加し、トーク画面内で自由に会話を楽しむことができます。鈴鹿さん本人の発言等を学習することで、優しいキャラクター性を再現し、参加者のモチベーションを高めてくれます。
- さらに、鈴鹿さんの声をもとに機械学習した合成音声により、音声によるコミュニケーションも可能で、まるで本人とやり取りしているかのような新しい体験を提供します。
- また、食事管理アプリ「あすけん」とデータ連携することで、参加者一人一人に合わせた応援をしてくれるとのことです。
「タレントAI Chat」による新しいコミュニケーションの形が、イベントを通して体験できるようになりました。AIを活用したファンエンゲージメントの新たな可能性が示された事例と言えるでしょう。
導入事例④:AIタレント「レモン」(株式会社ハイボール)
導入企業名 | 株式会社ハイボール |
事業内容 | ・コンテンツ制作 / マーケティング ・AIタレント制作 / 運用 ・shortドラマ制作 / アプリ |
従業員数 | 13名 |
AI導入前の課題 | ・SNSでの情報発信力や認知度向上の必要性 ・幅広い層へのリーチの拡大 |
AI導入成果 | ・AIタレントによるSNSでの情報発信力の強化 ・より多くの人々への効果的な情報届け |
株式会社ハイボールは、AIタレント「レモン」を世界初のAI広報に任命したことを発表しました。
- レモンは、Instagramアカウント『AIで何が悪いの?』で2.8万人のフォロワーを持つインフルエンサーです。AI広報として、SNSでの情報発信を通じて、会社の情報を世界中の方々にお届けしていくとコメントしています。
- また、子会社のTANSANをAIタレント事務所として、企業向けにAIタレントの活用支援からSNSマーケティングまでをサポートする新事業も開始するとのことです。
AIタレントを広報に起用することで、より幅広い層にリーチできることを狙っているようです。今後、AIタレントの活躍の場が広がっていくことが期待されます。
導入事例⑤:CMにAIタレントを起用(伊藤園)
導入企業名 | 株式会社伊藤園 |
事業内容 | ・リーフ・ドリンクの展開 ・海外展開 ・茶成分の活用 |
従業員数 | 7,928名(単独:5,205名) |
AI導入前の課題 | ・従来のテレビCMでは、商品の効能を十分に伝えきれていなかった ・CMの反響はあったものの、商品を手に取ってもらう行動につなげるのが難しかった |
AI導入成果 | ・生成AIを活用したモデルによるCMを制作し、商品の効能を直接的に説明することが可能になった ・AIモデルに「Katea(ケイティ)」という名前を付けることで、キャラクター性を持たせ、視聴者の関心を引くことができた |
伊藤園は、生成AIを活用したモデルによるテレビCMの第2弾を2024年4月4日から放映すると発表しました。このCMは、特定保健用食品(トクホ)の緑茶飲料「お〜いお茶 カテキン緑茶」のパッケージ刷新に合わせて制作されたものです。
- 新しいCMでは、第1弾と同じ女性モデルが登場し、生成AIで作った声で商品の効能を説明します。モデルは34歳の設定で、「Katea(ケイティ)」と名付けられました。日本人女性の声をベースに、生成AIを用いて声が作成されたとのことです。
- トクホのカテキン緑茶は、「血中コレステロールを減らす」「体脂肪がつきにくい」という2つの効能を謳っています。パッケージのデザイン開発には、プラグ(東京・千代田)の画像生成AIサービスが使用され、4月1日から新しいデザインが導入されます。
伊藤園は、前回のテレビCMが高い反響を得たものの、生成AIの話題が先行し、商品を手に取ってもらう行動には十分につなげられなかったと分析しています。今回は、効能を語る手法が望ましいと考え、新しいCMを制作したとのことです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
AIとChatGPTの活用は、タレント業界に大きな変革をもたらします。仮想タレントの登場、オーディションの自動化、育成支援の効率化、ファンエンゲージメントの強化、契約書の自動生成など、様々な場面でAIが力を発揮します。
一方で、AIの判断の限界や倫理的課題、タレントとのコミュニケーションの希薄化、セキュリティリスクなどの注意点もあります。
AIの力を活用しつつ、人間の感性や判断力を活かすことで、より良いタレントマネジメントが実現できるでしょう。