食品業界は、消費者のニーズに迅速に対応し、持続可能な生産を目指す中で、AI(人工知能)の導入による革新的な変化を経験しています。
特に、需要予測におけるAIの活用は、食品ロスの削減と効率的な資源管理に大きな影響を与えています。
この記事では、食品業界におけるAI導入の事例を探り、特に需要予測を通じて食品ロスをどのように削減しているのかを詳しく紹介します。
食品業界における課題とは?
現在の食品業界における課題とは何かを以下で解説していきます。
食品業界の課題:食品ロス・廃棄が多い
食品業界における一番の課題はやはり食品ロスや食品廃棄が多いことです。
一般的にはスーパーやコンビニなどの小売店、レストランでの廃棄をイメージすることが多いですが、生産・加工段階でも廃棄は発生します。
生産段階での食品ロスは、農作物の収穫時に起こります。天候不順、病害虫の影響、または市場の品質基準に適合しないために、完全に食べられるにも関わらず廃棄される食品があります。
これらは「見た目の問題」によるものが多く、消費者の高い品質基準が原因となっています。
加工・流通段階では、食品の取り扱いや輸送中の損傷、賞味期限の管理ミスなどにより、食品が廃棄されます。
また、過剰生産や過剰在庫も、食品ロスを増やす要因です。これは、需要予測の誤りや販売戦略の問題に起因することが多いです。
そのため需要予測を上手く利用することができれば生産段階から食品ロスや食品廃棄をなくすことができます。
食品業界の課題:食品価格の高騰
食品業界におけるもう一つの重要な課題は、食品価格の高騰です。
食品価格の上昇は、まず原材料のコスト増加が要因となり農産物、畜産物、海産物などの原材料価格が上昇すると、これが直接的に食品の小売価格に反映されます。
原材料価格の上昇の背景には、気候変動による作物の不作、資源の枯渇、または生産コストの上昇などがあります。
また近年ではロシア、ウクライナ間で戦争があり、原料の価格そのものも上昇しています。
食品業界の課題:人手依存度が高い
食品業界は、その運営と生産プロセスにおいて高い人手依存度を持つ業界の一つです。
要因としては多くの段階で労働集約的な作業が必要とされることに起因しており、これが業界全体に様々な課題をもたらしています。
食品業界の多くの部門では、収穫、加工、包装、そして流通といったプロセスの大部分が人の手作業に大きく依存しています。
特に農業分野では、作物の収穫や選別に多くの労働力が必要とされます。これらの作業は、しばしば高度な技術や特定の知識を必要とし、機械化や自動化が困難な場合があります。
また、食品の加工や品質管理の段階でも、人の手による細かな作業が求められることが多く、これが労働力への依存を高めています。
食品業界×AIで実現すること
食品業界にAIというとあまり馴染みないかもしれませんが、実際に食品業界にAIを導入することでどういったことが実現するのでしょうか?
以下で詳しく解説していきます。
食品業界×AIで実現すること:需要予測で無駄のない食品生産
食品業界においてAIを活用することで、食品の需要予測を行い、より効率的で無駄のない食品生産を実現することが可能です。
その結果を通して生産過程の最適化と廃棄ロスの削減に大きく貢献します。
一般的には、食品業界では生産量を確定することが難しい問題の一つです。
需要を少なく見積もると欠品が発生し、顧客満足度が低下するリスクがある一方で、大量に生産すると、賞味期限が短い商品の場合、売れ残りが廃棄されることになります。
しかしAIを使用することで、過去の販売データ、季節変動、市場のトレンド、気候条件などの多様な要因を分析し、より正確な需要予測を行うことができます。
たとえば、気温の変化が売上に与える影響を分析することで、天候に敏感な商品の需要を予測することが可能になります。
これにより、生産計画をより精密に調整し、適切な量の商品を生産することができるようになります。
食品業界×AIで実現すること:画像認識技術で異物検査・不良品検知
従来の食品検査プロセスでは、人の目による検査が主流でしたが、これには限界があります。
人間の目は疲れやすく、また一定の品質基準を維持することが難しいため、検査の精度にばらつきが生じることがあります。
しかし、AIによる画像認識技術を導入することで、これらの問題を大幅に解決することができます。
AIを活用した画像認識システムは、カメラで撮影された食品の画像をリアルタイムで分析し、異物の存在や不良品を高精度で検出することが可能です。
このシステムは、異物の種類や形状、色などの特徴を学習し、微細な異物やわずかな品質の違いも見分けることができます。
食品業界×AIで実現すること:食品の原料検査
食品の原料検査では、原料が安全基準に適合しているか、また品質が一定の基準を満たしているかを確認する必要があります。
従来、このプロセスは主に人間の専門家によって行われていましたが、AIの導入により、より高速かつ正確な検査が可能になっています。
AIを利用した原料検査では、機械学習アルゴリズムが原料の画像やセンサーデータを分析します。
これにより、異物の混入、腐敗の兆候、または品質に影響を与える他の異常を迅速に検出することができます。
例えば、AIは果物や野菜の表面の微細な変化を検出し、腐敗や病気の初期段階を識別することが可能です。
食品業界×AIで実現すること:サプライチェーンの最適化
食品業界におけるAIの応用の一つとして、サプライチェーンの最適化が注目されています。この分野でのAIの活用は、効率性の向上、コスト削減、そして持続可能性の達成に大きく貢献しています。
サプライチェーンの最適化において、AIは複雑なデータを分析し、より効率的な物流と在庫管理を実現します。
食品業界では、生鮮食品の品質維持や賞味期限の管理が重要な課題です。
AIを利用することで、これらの課題に対応し、食品の鮮度を保ちながら、効率的に配送する最適なルートやスケジュールを計画することが可能になります。
食品業界×AIで実現すること:食品製造プロセスの効率化
食品業界におけるAIの活用は、食品製造プロセスの効率化に大きく貢献しています。この技術革新は、生産性の向上、コスト削減、品質管理の強化といった多方面にわたる利点をもたらしています。
AIを用いた食品製造プロセスの効率化は、主にデータ駆動型の意思決定を可能にすることにより実現されます。
製造プロセスにおける各段階で収集される大量のデータをAIが分析し、生産効率を最大化するための洞察を提供します。
例えば、原材料の使用量、エネルギー消費、生産ラインの速度などのデータを分析することで、無駄を削減し、生産プロセスを最適化することができます。
食品業界におけるAI導入事例を紹介!
以下では実際に食品業界でAIを導入している事例を紹介していきます。
食品業界におけるAI導入事例:回転寿司の鮮度や需要予測のAI化(スシロー)
スシローでは、各皿にICタグを付けることで、レーンに流れる寿司の鮮度や売上状況をリアルタイムで追跡しています。
これにより、どの寿司がいつ食べられたか、どの寿司が廃棄されたかといったデータを10億件以上蓄積していました。
例えば、まぐろを注文する客が増えた場合、過去のデータを参照して需要を予測し、調理担当に適切な指示を出すことができます。
これまでは、現場担当者の経験や勘に頼るしかなかった予測が、AIによる分析によって精度を高めることができるようになりました。
食品業界におけるAI導入事例:販売動向と気象データのAIによる紐づけ
食品の需要は季節や気候に左右されます。
AIは過去のデータから季節や気候と需要の関係を販売動向として記録しデータベースに紐づけることができます。
また気象データも同じように記録しているためAIは機械学習を用いて気象条件に合わせた需要予測をすることができます。
結果として需要予測に基づいて食品の生産、販売ができるため無駄な生産や食品ロスを防ぐことができます。
食品業界におけるAI導入事例:豆腐の検品自動化(四国化工機-STI-ALPS)
STI-ALPSのAIは大量の画像データを学習し、良品と不良品の特徴をモデル化することで検品作業を自動化し、製造ラインから不良品を自動的に取り除きます。
複数のカメラを使用することで、豆腐の上面、側面、低面に加え、分割パックの内側も検査できます。
豆腐の割れ目やくぼみ、欠けの大きさなどの判断基準をルール化することで、長年の経験が必要だった目視による検品を自動化できました。
また、ロボット装置や無人搬送のフォークリフトと連動し、不良品を排除して良品を箱詰めし、冷蔵倉庫へ移動する作業の省人化も進めています。
今後はさらなる作業速度や精度の向上、品質の安定、コスト削減を目指しています。
食品業界におけるAI導入事例:じゃがいも選別作業(キューピー)
キユーピーは、画像認識技術を活用して、ジャガイモの良品を自動選別するAIシステムを構築し、検品の効率を2倍に高めることに成功しました。
この技術革新は、キユーピー鳥栖工場における生産改革の一環として行われました。
鳥栖工場では、ダイスポテトと呼ばれる1センチ角に切ったジャガイモを使用しており、これらのポテトに付いたミリ単位の黒い斑点を熟練の作業員が目視で選別していました。
しかし、このプロセスは非常に労力がかかり、精度の面からも効率化の余地があるとされていました。
そこでキユーピーは、AIを用いた画像認識技術を導入し、ダイスポテトの選別を自動化しました。
このシステムは、米グーグルの深層学習基盤ソフト「TensorFlow」を使用し、良品と不良品の特徴をモデル化して、製造ラインから不良品を自動に取り除くことができます
食品業界におけるAI導入事例:ジャムの異物検査(アヲハタ)
アヲハタ株式会社は、ジャムおよびフルーツスプレッド用の異物検査装置を株式会社ニコンと共同開発しました。
この装置は、光学技術とAIを活用して異物を検出し、除去するために設計されました。
ジャムやフルーツスプレッドの製造過程では、原料に混入する異物や夾雑物(フルーツのヘタ、葉、枝、種など)の除去が重要です。
アヲハタでは、冷凍された原料の事前選別に加え、加熱や加工を経た製造工程中にも、容器に充填する前に人による目視検査を全て行っていました。
しかし、この検査は作業者に大きな身体的負担を与え、検出精度にもばらつきがあるため、作業改善が必要でした。
そこでアヲハタは、ニコンの光学技術に着目し、2015年から基礎実験を重ね、2016年に共同開発契約を締結しました。
この異物検査装置は、ニコンの分光技術を用いて、ベルトコンベアを流れるジャム状の原料を連続的に撮影し、異物や夾雑物を検出します。
検出された異物や夾雑物は、バキューム装置で吸い出して自動的に除去されます。
食品業界におけるAI導入事例:ニチレイフーズ
ニチレイフーズは、2020年1月から国内4拠点の工場で、生産計画と要員配置計画をAI(人工知能)技術を用いて自動立案するシステムを本格運用しています。
このシステムは、熟練者の経験に基づく“勘”をシステムに反映し、計画立案の作業時間を従来の10分の1程度に短縮することが可能です。
ニチレイフーズと日立製作所が共同で開発し、2020年2月4日に発表されました。
この「最適生産・要員計画自動立案システム」は、AI技術を使って熟練者の経験に基づく“勘”を反映し、需要変化に即応できる生産体制の構築と、業務効率や生産性の向上を目指しています。
さらに、熟練者以外の従業員でも生産計画と要員配置計画を作成できるため、労働時間の低減や休暇取得の向上など「働き方改革」の一助になることが期待されています。
食品業界におけるAI導入事例:献立のパーソナライズ&レコメンド(味の素)
味の素株式会社は、アスリート向け献立提案AIアプリ「ビクトリープロジェクト®管理栄養士監修 勝ち飯AI」のβ版を開発し、ユーザーテストを開始しました。
このアプリは、食とアミノ酸の分野における味の素の先端技術と知見を基に、デジタルテクノロジーを活用して生活者に新たな価値を提供する取り組みの一環として開発されました。
「勝ち飯®AI」は、トップアスリート向けに培われた栄養計算や高度なサポートの知見を一般のアスリートにも広く提供することを目的としています。
アプリは、アスリートの厳しい栄養基準を満たしつつ、好きなメニューを献立に組み込むことができ、食事を楽しみながら選手の目標に向けてサポートします。
AI×食品業界のまとめ
食品業界におけるAIの導入は、特に需要予測の分野で顕著な成果を上げています。
AIによる精密なデータ分析と予測は、生産計画の最適化を可能にし、結果として食品ロスの大幅な削減に貢献しています。
これらの事例からは、AI技術が食品業界の持続可能性と効率性を高める重要な役割を果たしていることが明らかになります。
今後も、AIの進化とともに、食品業界におけるその応用範囲と影響はさらに広がっていくことが期待されます。