現在多くの分野で活用されるAIですが、法務の分野にも活躍の場を広げつつあります。
将来はAIによって多くの職業が淘汰されるとも言われていますが、果たして法務の仕事はどうなのでしょうか。
この記事では、
- 法務の仕事がAIによって奪われるのか
- なぜ法務の分野でAIが活用されるようになったのか
- 法務の分野で実際に活用されているAIの例
などについてご紹介します。
ぜひ最後までご覧ください。
【前提】現在のAIの実力・得意なことと苦手なこととは
現在のAIが得意とするのは、「膨大なデータをもとにした文章の生成や分類」などの個別のタスクです。ChatGPTをはじめとする生成AIが台頭していることからも分かるように、もっともらしい文章を生成することを得意としています。
しかし、あくまでも「もっともらしい」文章です。
実際、現在のAIは知性は有しておらず、持っているデータを高速で繋いで文章化する作業しかできません。そのため、生成した文章が本当に正しいのかを検証することはできず、この点が現在のAIの大きな弱点です。
AI技術は日々進化しており、法務分野においてもその影響は無視できません。複雑な法律文書の分析から、契約書の作成、法務チェックまで、AIは多岐にわたる作業を支援しています。
しかし、現在のAIの弱点により、AIが法務の専門家を完全に置き換える日はまだ来ていません。現在のAIは、あくまで人間の法務専門家を補助する役割を担っており、最終的な判断は人間が行うのが一般的です。
【結論】AIによって全ての法務の仕事がなくなることはない
現状、AIは業務における意思決定ができるレベルにはありません。従って、意思決定を求められる仕事を中心にAIに代替される可能性は低いでしょう。
しかし、法務業務の一部はAIによって代替される可能性があります。
AIによって代替される可能性が高い業務の例として、「過去の判例を調べ、分析する作業」が挙げられます。
AIは膨大なデータを蓄積し、それをもとに分析や予測をすることを得意としており、AIはこれを瞬時に実行可能です。そのため、こういった業務が将来的にAIに取って代わられる可能性はあると言えます。
ただし、弁護士育成という観点から「過去の判例を調べ、分析する業務のAIへの代替は進めるべきでない」という意見もあり、効率化と人材育成という目的を両方満たすことは現状難しくなっています。
弁護士をはじめとする法務の専門家の経験や直感は、AIでは代替できない重要な要素です。したがって、AIで代替可能な業務を全てAIに任せるのではなく、あくまでも必要に応じて活用する程度に留めるのがいいでしょう。
AIが法務業務を効率化することで企業の成長を後押しする
先述の通り、現在のAIは知性を持ち合わせていません。しかし、AIの得意領域であれば法務業務においても力を発揮します。
AIをうまく活用するには、AIの強みと弱みを正確に理解する必要があります。AIの強みは「情報を抽出する・分類する・文章を生成する」などですが、「情報や文章の意味の理解を理解することができない点」が弱みです。
これに実際の法務業務を当てはめると、AIの強みを活かせるのは「契約書からの情報の抽出・抽出した情報の整理・文章の生成・データベース化」などの業務で、まだAIに任せられない業務は「得た情報をもとにした意思決定・外部との交渉」などになります。
法務の分野における全ての業務をAIに任せることはまだできませんが、業務のうちの一部にAIを活用することにより、単純作業に割く時間を削減できたり、リスクの制御が徹底できるなど業務の効率化につながり、必ず人が関わる必要のある業務に集中できるようになり、業務の品質の向上につながります。
企業の成長には、リスクの管理と迅速な意思決定が不可欠です。AIを活用することで、これらのプロセスが加速し、企業の競争力を高めることが期待されており、このためにAIを活用される場面が出てきています。
法務業務で活用されるAIの種類とは
AIは法務の分野のうち、どのような業務でよく利用されているのでしょうか。3つほどご紹介します。
AIによる契約書のレビュー
AIの活用により、法務確認(リーガルチェック)の効率化・自動化が可能になります。
契約書をアップロードすると、AIが自動で契約書のリーガルチェックを実行してくれます。これにより、法務担当者によるチェックの時間を削減することができます。
チェックできる項目はサービスによって異なるものの、多くの場合、
- リスクの大小・有無
- リスクがある条項の有無
- トラブル例を表示
- 不足事項の指摘や修正例の提示
などのフィードバックを得られるため、契約書に係るリスクを大きく削減することができます。
また、人間がチェックする場合と比べ、チェックの品質が均一に保てるというメリットもあります。
AIによる契約書の管理システム
AI契約管理システムとは、適切に契約書を管理するための機能が搭載されたシステムを指します。
契約書は締結時だけでなく、締結後にも内容を見返したり、他の契約の際の参考とする場合があるため、いつでも確認や修正ができるよう適切に管理しておく必要があります。
AI契約管理システムには、
- 契約書の検索ができる機能
- 契約書をアップロードすることで文章を自動で読み取ってくれる機能
- 契約期限が近づいてきたら知らせてくれる機能
などの機能が搭載されています。これらの機能を活用することで、契約書業務にまつわるミスを削減し、効率的な業務推進が可能となります。
AIによるリサーチの効率化
法務業務において、過去の判例を調べることなどのリサーチ業務は非常に多くなっていますが、それら全てを人の手で行うことは現実的ではありません。しかし、ここでAIを活用できれば人の手で行う業務を大幅に減らすことができ、業務の効率化につながります。
すでに触れている通り、AIは膨大なデータを蓄え、それを活用することに長けています。そのため、取り扱う情報量が増えれば増えるほどAIを活用する効果は大きくなります。
また、リサーチでAIを活用する上で、知財の取り扱いにまつわるトラブルを避けることを忘れてはなりません。どこまではオープンな情報として扱い、どこからはクローズな情報として扱うのか。この点を明らかにしておくことが、トラブルを未然に防ぐために重要となります。
実際に法務業務で活用されているAI 2選
実際に法務の分野で活用されているAIを2つご紹介します。
法務でのAI活用事例①:契約書審査業務の効率化(株式会社チェンジ/GVA assist)
NEW-ITトランスフォーメーション事業を展開する株式会社チェンジでは、契約書審査業務においていくつかの課題とリスクに直面していました。
法務担当者が他の業務を兼務しており、日々の業務の優先順位の変動によって、重要な契約審査が遅れることがしばしばあったのです。また、コスト面の課題や、外部の人間とのコミュニケーションコストの大きさといった課題もありました。
これらの課題を解決するためにGVA assistを導入した結果、多くのメリットがありました。
まず、契約書審査にかかる時間が大幅に削減されました。例えば、NDAの審査時間が30分から10分へと短縮され、システム開発契約の審査時間も1時間から半分に減少しました。この時間短縮により、法務担当者はより重要な業務に集中できるようになり、法務部門がビジネスの現場に積極的に関与する機会が増えました。
さらに、自社の契約書審査基準をプレイブックとして整理することで、審査時の迷いが減少し、営業スタッフの契約に関する知識と理解が深まりました。
そして、契約書審査の重要ポイントと落とし所を明文化することで、法務担当者が不在でも契約業務が滞りなく進む体制を構築することができました。
これらの改善により、業務の属人化が解消され、全体としての業務効率が大きく向上したのです。
法務でのAI活用事例②:契約書点検AIシステムの導入(吉田総合法律事務所/LegalForce)
会社法・労働法(経営側)・契約法を主に取り扱う吉田総合法律事務所では、クライアントからの期待に応えるため、高品質な契約書のレビューを迅速に提供することが大きな課題でした。品質を維持しつつ、納期を短縮するという二律背反する要求を満たすための解決策が求められていました。
この課題を解決するためにLegalForceを導入したところ、契約書レビューの時間が従来の半分にまで短縮されるという顕著な効果が表れました。
自動レビュー機能を通じて、一般的なリスクや漏れが迅速に特定できるようになり、弁護士はより複雑な問題に集中できるようになりました。さらに、LegalForceに搭載された契約書のひな形や条文検索機能を利用することで、契約書の作成や修正が効率的に行えるようになり、クライアントとのコミュニケーションもスムーズになりました。
これらの効果により、法務部の業務効率と品質が向上し、企業価値の強化にも寄与しています。
法務省の契約審査に関する指針をまとめたガイドラインについて
法務省は、2023年8月1日に「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」という、AIによる契約審査に関する指針をまとめたガイドラインを公表しました。
以前から、AIによる契約審査は弁護士法72条で禁止される非弁行為に当たるのではないかという指摘がありましたが、このガイドラインによって、非弁行為に当たるかどうかの判断基準が明確化されました。
まとめ
AIの法務分野への導入は、効率化とリスク管理の観点から見ると大きなメリットがあります。
しかし、全ての法務の仕事をAIで置き換えるのではなく、AIの強みである「情報を抽出する・分類する・文章を生成する」などを活かせる単純業務をAIに任せることにより、法務担当者は人間にしかできない業務に集中できるようになります。
また、AIはあくまでも法務チェック(リーガルチェック)や契約書管理などの手段として活用するようにしましょう。
ただし、法務省から公表された「契約審査に関する指針をまとめたガイドライン」などを遵守し、弁護士法に抵触しないようご注意ください。
この記事がAIによる法務業務の効率化のお役に立てれば幸いです。