米国マサチューセッツ州の連邦地方裁判所は2024年11月20日、高校でのAIを使用した課題提出に関する画期的な判決を下しました。学校の規則にAI使用の明示的な禁止がなくても、教育機関はAIによる不正行為に対して適切な処分を行う権限があるとの判断を示しました。
事案の概要
マサチューセッツ州ヒンガム高校の3年生(裁判記録では「RNH」と表記)は、アドバンスト・プレイスメント(AP)のアメリカ史プロジェクトにおいて、AI(Grammarly)が生成したテキストを無断で使用し、自身の作品として提出しました。この行為が発覚し、学校側は以下の処分を行いました。
- プロジェクトの一部で不合格判定
- 土曜補習の実施
- 全米優等生協会への登録禁止(後に撤回)
※事案の時系列
裁判所の判断根拠
ポール・レベンソン判事は、以下の点を重視して学校側の対応を支持しました。
- 学問的誠実性の重要性: 生徒手帳にAI使用の明示的な禁止規定がなくても、学校の「学問的誠実性に関する規則」に違反する行為であることは、生徒が合理的に理解できたはずだと判断。
- 処分の妥当性: 学校が課した処分は、教育機関としての適切な裁量の範囲内であり、過度に厳しいものではないと認定。
- AIツールの不適切な使用: 判決文では、「GrammarlyのようなAIツールに文章を生成させ、その出力を引用なしで流用して自分の作品だと主張することに、明確な教育的意義はない」と明確に指摘。
発覚の経緯と証拠
不正行為の発覚に至った主な証拠として、以下が挙げられます。
- Turnitinによる検出: 課題提出時に使用された盗用チェックサービスが、AI生成コンテンツを検出。
- 作業時間の異常な短さ: 他の生徒が7〜9時間かけた課題を、わずか52分で完了していたことが修正履歴から判明。
- 存在しない引用の存在: 提出された課題には、AIが生成した架空の書籍からの引用(ハルシネーション)が含まれていた。
今後への影響
本判決は、教育現場におけるAI使用に関する重要な先例となる可能性があります。特に以下の点で影響が予想されます。
- 教育機関の権限明確化: 明示的な規則がなくても、学問的誠実性を損なうAI使用に対して、教育機関が適切な処分を行える根拠となる。
- AI使用の線引き: ブレインストーミングやソース探しなどの補助的なAI使用は許容される一方、AI生成コンテンツの直接的な流用は不正行為として扱われることが明確に。
- 評価基準の再考: 教育機関は、AI時代における学習評価の方法や、適切なAI使用の基準について、より明確なガイドラインの策定を迫られる可能性。
本判決は、急速に進展するAI技術と教育倫理の接点において、重要な指針を示すものとなりました。教育現場では、AIの適切な活用と学問的誠実性の維持という課題に、より具体的に取り組むことが求められています。