生成AI技術の進化により、新たな著作権侵害の問題が浮上している。声優業界で深刻な懸念を引き起こしているのが、生成AIによる声優の声の無断複製と商業利用だ。
事態の発覚と現状
2023年後半、人気声優の中尾隆聖氏(ドラゴンボールZのフリーザ役)が自身の声が無断で商用利用されている事実を公表し、業界に衝撃が走った。「私の声が勝手に売られていた」という中尾氏の告白は、声優業界が直面する新たな課題を浮き彫りにした。
深刻な被害の実態
調査によると、特にTikTokなどのSNSプラットフォームで問題が顕著化しており、わずか3ヶ月の期間で270件もの無断使用事例が確認された。被害を受けた声優は267人に上り、その多くが収益化されていたという事実も判明している。
「私たちの声は『商売道具』で、『人生そのもの』です」という中尾氏の言葉は、声優という職業における声の重要性を端的に表している。
業界団体の対応
2024年1月13日、声優業界の3団体が共同で記者会見を開き、以下の3つの要望を含む声明を発表した。
- アニメや外国映画の吹き替えでの生成AI使用の禁止
- 声の使用における本人許諾の義務化
- AI生成であることの明記
法的課題と今後の展望
現行の日本の法制度では、「声」自体を著作物として認めていないという根本的な問題が存在する。明倫国際法律事務所の田中雅敏弁護士は、「声を法律で守ることが今可能かというと、権利として守っている法律はない」と指摘する。
進撃の巨人のエレン役で知られる梶裕貴氏は、「生成AIというもの自体が悪さをしているわけではなく、『無断』という行為に問題がある」と指摘。技術と権利保護の両立を図る必要性を示唆している。
今後の展望
文化庁を中心に協議が進められているものの、技術の進歩スピードに法整備が追いついていないのが現状だ。業界団体は、国や関連事業者との対話を通じて、AIと共存可能な新しいルール作りを目指している。
かないみかさん(アンパンマンのメロンパンナ役)が述べるように、「生成AIと何か一緒にやっていけるようなことがあれば、素晴らしいものになっていく」可能性を模索しつつ、権利保護の枠組み作りが急務となっている。